2024年5月11日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2021年1月2日

ナチスとの関係性も追及

 きわめつけは、ドイツ銀行の過去の歴史までさかのぼり、目先の利益を優先する体質を批判する。ドイツ銀行が第二次世界大戦のときに、ナチスに協力しユダヤ人虐殺に加担した史実を持ち出すのだ。

Deutsche sold more than 1,600 pounds of gold the Nazis had stolen from Holocaust victims—some of it extracted from Jews’ teeth and then melted down—and the proceeds provided Hitler’s regime with desperately needed hard currency to buy weapons and raw materials. Deutsche financed the construction of the Auschwitz death camp and a new factory nearby, which was run using Auschwitz's slave labor and which manufactured Zyklon B, the chemical used in Auschwitz’s gas chambers. The Auschwitz loans were closely reviewed by bank managers, who received regular updates on the progress of the camp’s construction.

「ドイツ銀行が売却した1600ポンド超の金(ゴールド)は、ナチスがホロコーストの犠牲者から盗んだものだった。その一部はユダヤ人の金歯を抜き取り溶かしたものだった。売却して得た資金はヒットラー政権に提供され、武器や原材料を購入するためのまたとない軍資金となった。ドイツ銀行はアウシュビッツ強制収容所と、付随する新工場の建設資金を融資した。その工場ではアウシュビッツに収容されたユダヤ人が奴隷として働かされ、ツィクロンBを製造していた。この化合物はアウシュビッツのガス室で毒ガスとして使われた。アウシュビッツへの融資はドイツ銀行の経営陣によって詳しく審査されていたし、強制収容所の建設の進捗は定期的に報告もされていたのだ」

Deutsche Bank and its executives were parties to genocide. World War II and the Holocaust would have happened without the bank, but its participation allowed the Nazis to improve the ruthless efficiency of their military campaign and their quest to cleanse Europe of Jews. And it was not an accident. Deutsche was involved because of decisions made by the bank’s leaders for reasons of expedience, if not ideology.

「ドイツ銀行とその幹部たちはジェノサイド(集団虐殺)の当事者だった。第二次世界大戦とホロコーストはドイツ銀行がなくても起きていただろうが、ドイツ銀行が加担したことにより、ナチスは軍事作戦と、ヨーロッパからユダヤ人を抹殺するという計画を、非情なまでに効率的に遂行できるようになった。しかも、たまたまこうしたことになったのではない。ナチスのイデオロギーに賛同したとは言わないまでも、経営陣が事業としての合理性を検討したうえでドイツ銀行は参画したのだ」

 本コラムを執筆している評者は正直、ドイツの金融機関にあまり興味を持ったことがなかった。ドイツ銀行の過去についても不勉強で知らなかった。しかし、ベストセラー本で、ここまで明確に第二次世界大戦での責任をつきつけているのを読むと、アメリカにおけるドイツ銀行に対するイメージというものが、どういうものか想像に難くない。ましてや、ユダヤ系の大物が珍しくないアメリカのウォール街で、ドイツ銀行が名門の投資銀行に追いつこうとしたのは無理があったのではないかと思わざるをえない。

  
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