首相、反体制派拘束にも触れず
ロシアに対する日本政府の宥和的、厳しさに欠ける対応は領土問題だけではない。プーチン政権の強権手法に対しても、日本の態度は極めて緩い。
菅首相の施政方針演説の前夜、ロシアの反体制活動家、ナワリヌイ氏がドイツから帰国、直後に身柄拘束された。首相は演説で触れようと思ったらできたにもかかわらず、この問題には一切触れなかった。
ナワリヌイ氏は2020年8月、露国内線の機内で突然意識を失い、ドイツの病院で治療を受けていた。ドイツの研究所などの調査では旧ソ連時代に開発された神経剤が使用された痕跡があり、ロシアの情報・治安機関の関与がとり沙汰されている。
アメリカのポンぺオ国務長官が強く非難、釈放を求め、欧州連合(EU)、イギリス、フランス、イタリアらの外相らも同様の声明を発しているが、日本は加藤官房長官が「関心をもって注視している」と述べるにとどめ、毒殺未遂に関しても「早期に事実関係が解明されることを期待している」と、およそ血の通ったコメントとは程遠い素っ気なさだった。
2018年3月、イギリス在住のロシア元情報機関員父娘が、今回と同じ神経剤によって生死をさまよった事件ではやはりロシア情報機関の犯行であるといわれ、イギリスはじめアメリカ、EUなどはロシア外交官の追放など厳しい制裁を科した。日本の安倍政権はイギリスのメイ首相(当時)から間接的に同調を要請されたが、見送った。
それどころか日本はメイ首相からの要請のあった翌日、ロシアのラブロフ外相を東京に迎えて外相会談を行った。以前からの日程で中止はできなかったとしても、この日がラブロフ外相の誕生日とあって、昼食にケーキまで添えてもてなしたというから驚く。各国が厳しい制裁を打ち出している中でだ。
北方領土返還のめどが何ら絶たない中で、ことほどさように、日本政府はなぜロシアに宥和的、いやもっといえば〝へつらい〟とも思える態度をとるのだろう。
安倍前首相はプーチン大統領とウマが合ったようだ。その宥和的な方針は人間関係におぼれた政策ミスだったとしても、菅内閣がそれを引き継ぐことはないはずだ。
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