2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2021年2月5日

──『論語と算盤』は〝and(と)〟に価値がある。

渋澤 「or(か)」を否定するわけではない。効率性、合理性のためには必要なものだ。組織運営にも「or」は欠かせない。ただし、「or」の力だけでは、クリエイションはできない。

 「and(と)」の力というのは、関係性だ。例えば、相反する関係性として「環境と経済」「健康と経済」などがある。短期的には相反していても、長期的にみれば、「健康と経済」が両立して、新しいものが生まれる、つまりイノーベーションが起きる。それに対して「or」の力は分断するので、それ以上の化学反応が起きない。

 コロナ禍によって、リモートワークが定着した。「リアルかオンラインか」と、相反してとらえられるが、これも見方を変えれば、現場の社員と社長が直接コミュニケーションをとることができるチャンスともいえる。実際に、そのような活用をしている会社もあって、そうした会社は今後強い。

 こうしたトップとのコミュニケーションを通じて「なぜ、この会社に勤めているのか?」という問いを深掘りできるからだ。「Why」の問いに対して、社員一人ひとりの中に答えがある会社ほど強い。多くの会社は「ノルマをこなす」といった「What」に目を向けがちだ。しかし、「なぜそれをするのか?」を突き詰めて、「自分事」と「会社の存在意義」とをシンクロさせることができれば、大きな強みになる。

 企業理念も以前は「ミッション(使命)」が主流だった。そこに、クエッションはなかった。今は「パーパス(目的)」に変える企業が出てきている。「How」を求めることも多く、実際これも必要だが、目線がそこに固定されてしまう。俯瞰しないと、大きな流れが見えない。「社会軸である論語」と「経済軸である算盤」、軸と軸がクロスするのではなく、俯瞰して物事を見ることが大事なのだと思う。

──コモンズ投信では「見えない価値」を大事にしている。

渋澤 「価値」とは何かを考えると、投機では価格しか見ない。一方投資は、価値と比べて価格が安いと思えば買いで、その逆であれば、売りとなる。ただ価値というのは、多様なもので、何か答えがあるわけではない。逆に言えば、一つの正しい価値はないかもしれないが、自分の価値を意思表示することが大事になる。

 「財務価値」はもちろん大事で、共通言語になる。これをベースにコミュニケーションを行うことができる。ただし、財務価値は、過去に取り組んだことが数値に表れているにすぎない。

 長期投資に必要なことは、これからの会社の取り組みだ。もちろん、過去も参考になるが、それだけでは足りない。数字は氷山の一角だ。海面下、深くなるほど、見えなくなり、正しい数値化が難しくなってくる。そうした見えない価値として私は4つのポイントを考えている。①競争力(結果は数字に出るが、なぜ競争力があるのかは数値化できない)、②経営力(結果が問われて見えるが、なぜその力があるかの数値化はできない)、③対話力(回数で計測できるかもしれないが、そこだけではない)、④企業文化(一番深い部分。日々会社がどういうWhyを持っているか。どういう答えを出そうとしているか)。このような見えない価値を「and」の力でつなげていくことが大事だと思っている。

 また、どの会社も財産は「人」だ。しかし、これはバランスシートの資産として載っていない。損益計算書の人件費として出てくるだけだ。本当に大切なことは数値化が難しい。ただ数値化できないからあきらめるのではなく、試行錯誤しながら見えない価値を探究することが長期投資家としては大事なことだ。


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