2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月9日

 昨年8月20日、ロシアの野党指導者アレクセイ・ナヴァルヌイは、シベリア西部の都市トムスクからモスクワに向かう航空機の機中で突然苦しみだし、航空機はオムスクに緊急着陸した。ナヴァルヌイは、その後ドイツに移送され、ドイツはナヴァルヌイにノヴィチョクが使われたことは疑いない、と認定した。ナヴァルヌイ毒殺未遂事件にロシアの国家機関が関与していたことは確実である。

DanielVilleneuve / mehmetbuma / iStock / Getty Images Plus

 ナヴァルヌイは1月17日、身柄を拘束されるのではないかとの強い懸念のある中、モスクワに戻り、逮捕・収監された。裁判では、3年半、またはそれ以上の禁固になりうるという。

 しかし、ナヴァルヌイは、プーチン体制を苦しめているようだ。1月19日、彼は黒海にある10億ドルのプーチンの「秘密宮殿」についての2時間の動画を公開したが、この動画はYouTubeで1億回以上も再生されたという。

 1月23日には、ナヴァルヌイの呼びかけたデモがロシア各地で行われた。モスクワでは厳寒のなか、4万人以上が参加し、「プーチンなきロシアを」、「ナヴァルヌイを釈放せよ」とのスローガンを唱えながらデモをしたと報じられている。治安当局はナヴァルヌイの妻を含む1000人以上の人を無許可デモ参加の罪状で拘束したと報じられている。さらに、1月31日には、ナヴァルヌイの釈放を求める抗議デモが行われ、当局による都市封鎖にも拘わらず、デモは全土に拡大した。

 プーチンは力による弾圧でデモを抑え込もうとしている。今後、プーチン支持者と反プーチン派の対立が先鋭化し、ロシアの政治は不安定になると思われる。弾圧、それへの反発、さらなる弾圧、さらなる反発の悪循環にはまる可能性が高い。

 先の憲法改正でプーチンは2036年まで政権の座にとどまり得ることになったが、プーチンが実際にその時までロシアの指導者である可能性は低いのではないか。こういう剥き出しの力を使っていると、ロシア人の目から見て、プーチン政権の正統性はどんどん侵食されていく。ロシアの政治体制は独裁体制といってよいが、独裁者や権威主義的指導者は一見安定しているように見えても、国民の消極的、積極的支持がないと脆く崩れる。1990年はじめのソ連が崩壊していく過程は、それを如実に示しているように思われる。

 ロシア国民はプーチン流収奪政治と石油価格の低迷で経済的苦境にある。今やロシアのGDPは韓国以下である。プーチンが「秘密の宮殿」で贅沢三昧をしている映像は、ロシア人のプーチン観に影響を与える。ナヴァルヌイは有効な批判をプーチンあてに打ち出したと思われる。
 
 プーチンのやり方に対する西側の目は厳しい。例えば、1月23日付けのエコノミスト誌は「世界はアレクセイ・ナヴァルヌイの収監を受け入れてはならない。プーチン政権の腐敗を暴露するためには勇気がいる」との社説を掲載し、世界はナヴァルヌイの拘束に抗議すべしと論じている。日本もこの問題について民主主義国として何らかの態度表明をしても良いのではないだろうか。

  
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