ロシアの野党指導者アレクセイ・ナヴァルヌイは8月20日、シベリア西部の都市トムスクからモスクワに向かう航空機の機中で突然苦しみだし、航空機はオムスクに緊急着陸した。ナヴァルヌイはオムスク緊急病院No1に意識不明のまま運び込まれた。その後、8月22日、ドイツに移送された。オムスクの病院は容態が不安定であるとして、移送を8月22日まで遅らせたが、これは体内から毒物が検出されなくなるまで、移送を引き延ばしたと疑われている。オムスクの病院は移送の前にナヴァルヌイの体内には毒物の痕跡はないと発表している。
ところが8月30日、ドイツはナヴァルヌイにはノヴィチョクが使われたことが「疑いの余地なく明らかになった」と発表した。
ノヴィチョックは軍用に開発された神経剤であり、KGB、今のFSBのような治安機関や軍にしかないはずである。国家機関がナヴァルヌイを毒殺しようとしたことはほぼ確実とみてよい。プーチンの特別命令で行われたのか、あるいはプーチンの意図を忖度した下僚の行為かはわからないが、ロシア政府は調査を拒否し、証拠を疑問視し、ロシアに対する「情報キャンペーン」を非難している。
9月4日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Putin’s poison’は、こういうことが繰り返されないように西側はきちんとした対応をすべしと論じている。具体的には、(1)ロシアと欧州を結ぶノルドストリーム2パイプライン計画の見直し、(2)ロシアの国際的な「クラブ」のメンバーシップの制限、特にG7にロシアを復帰させないこと、(3)「汚い」ロシアのお金の流れと影響力拡大工作を抑えることを挙げ、こうしたことについて西側は協調して取り組むよう主張している。
当然、同社説の言うようにすべきである。そうでないと、プーチンはこういう事件を繰り返し起こす恐れがある。
ロシアをG7に復帰させるなど論外であるし、ロシアのエネルギーへのEU依存も見直されるべきであろう。人権侵害に対しビザ発給禁止や資産凍結などを科すマグニツキー法に基づく制裁も考えたらよい。プーチンはどうしようもない「ならず者」であるという認識で対応すべきであろう。トランプが対ロ制裁には消極的で、「証拠を見たい」などと言っているが、奇怪である。
プーチンとその政権がなぜこれほどまでにナヴァルヌイを敵視し、警戒するするのか。ナヴァルヌイは9月中旬に行われるロシアの地方選挙で野党勢力を応援するために東部に行っていた。プーチンとその政権は改憲後、盤石な政権基盤を持つように見えるが、プーチンの認識ではそうでもないということだろう。恐怖政治を行う独裁者は自らも恐怖の中で生きていると言われるが、プーチンの常軌を逸した行動は、彼の恐怖心の反映かも知れない。ナヴァルヌイはある刑事裁判で有罪判決を受けており、プーチンに対抗して大統領選には出られないが、それでもプーチンは心配しているのであろう。
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