1月15日、ロシアのプーチン大統領は年次教書において憲法改正を提案、1月20日には早くも、年次教書で提案した憲法改正の関連法案を下院に提出した。主な注目点は次の通りである。
・大統領の任期を通算2期までに制限:現行は連続2期まで、通算についての制限はない。
・新たな「国家評議会」を設置:新国家評議会の役割は、国家間の相互調整、内政および外交政策の方向性、社会・経済発展の方向性を決める。
・連邦議会への権力集中:下院が首相候補、閣僚候補を承認、それを大統領が任命。
・国際法より憲法を優先させる:ロシア憲法はいかなる国際的な司法判断よりも優先されると明記。
プーチンの憲法改正提案は、大統領の権限を弱め、本当の権力を首相や国家評議会議長、国会議長など大統領以外のところに移すことが主眼になっている。プーチンがこれらの地位に就任し、ロシアの指導者としてとどまることを狙ったものである。
これまで大統領が首相を選び任命していたが、改正案では国会(ドゥマ)が首相を選び、閣僚も選ぶことになる。議会内閣制の側面が出てくる。しかし、プーチンの提案では、大統領はドイツやイスラエルでのように名誉職にならず、大統領には、軍と法執行機関への指揮権が残されるという。どのような政治機構が出来てくるのか、まだよく分からないところがある。はっきりしているのはプーチンが2024年の後もロシアの最高指導者として残るということである。その結果、ポスト・プーチン時代が来るのは2024年よりさらに先になることになるだろう。
エリツィン元大統領は、心臓病という健康不安もあり、大統領辞任後に自らまたは親族を訴追などから守るとの約束をプーチンから取り付け、プーチンを後継者指名したと言われている。プーチンはこのエリツィンとの約束は守ったと思われるが、プーチンはまだ健康であるし、かつ、エリツィンがプーチンを信頼したほどに信頼できる人がないという状況にあるのかもしれない。プーチンはあまりに多くの人を殺し、あまりに多くの国家資金を不正に使用したので、権力を手放すことはできないとの指摘もあるが、的を射ていると思われる。
かくして、ロシアのプーチン時代はこれからも続くことになったが、その意味は何か。ロシアは、政治的にはますます民主主義国ではなくなり、独裁政権の色彩が強まると考えられる。西側との距離は大きくなっていくだろう。経済的には、エネルギー輸出依存体質は変わらず、脱石油・ガスの方向での経済の構造改革ができず、世界的な地球環境問題への対応としての二酸化炭素排出削減の流れの中、石油・ガス依存のロシア経済は衰退していくように思われる。今でもロシアのGDPは韓国以下であるが、さらに世界経済での比重を減らしていくだろう。
プーチンは自分の権力維持については優れた政治手腕を持つが、長期的な経済政策については、20年以上やってきて、見るべき成果を上げていない。プーチン後をにらんで、ロシアが不安定化する兆しが少しあったが、そういう不安定化はここしばらくなくなるだろう。
年次教書、そして、それに続く憲法改正案では、統治機構改革が大きな関心を引いたが、プーチンは国際法とロシア憲法が矛盾する場合、憲法が優先するとして、国際法軽視の姿勢を打ち出している。これまでの条約から出てくる義務をどうするのか、今後条約を結んでも、意味がなくならないか、大きな懸念を呼び起こす姿勢である。
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