盤石のように見られがちなプーチン大統領ではあるが、同氏への支持の低下は、かなり目立つようになってきている。特に、青年層のプーチンへ離れが著しいという指摘がある。ワシントンに本部を置き、海外のロシア人達にリベラルな情報を伝達している、Free Russia Foundationによれば、プーチンの全国平均支持率は60%以上だが、この10年間で青年層(17-25歳)における支持率は急激に低下して19年1月現在32%となっている。
一般の理解に反して、ロシアは実は「若い国」である。平均寿命が低い(男性では67歳強)ために、34才以下の者が実に人口の43%を占めている。うち3000万は20歳以上の世代Yと呼ばれ(米国のミレニアルに相当)、1500万が10代の世代Z、そして1800万が10歳以下である 。彼らは一般的に政党等、既存の制度を信じておらず、65%はマスコミも信じていない。そして反米主義に染まっておらず、世代Yの者の70%強は物質的豊かさを重視して、49%の者が「西側の先進国のようになりたい」と考えている 。
青年層は多くの国で、高年齢層よりリベラルな傾向を有するが、ロシアでは選挙における若年層の投票率は低く、他方プーチンに傾倒する高年齢層の投票率は高いので、これまでプーチンは安泰であった。またロシアでは労働人口の実に3分の1以上が公務員・準公務員であるので、安楽なポストを求める青年は、「青年親衛隊」等、当局の組織する保守的青年運動に加わってきた。
しかし、プーチン離れを見せるのは、今や青年層に限らない。2018年6月、政府が年金受給年齢を5年「後倒し」にする法律を採択、プーチンがこれに署名したことで、彼のトータルの支持率は20%程度落ちて60%台前半を低迷することとなっている。そして2000年以降、世界原油価格の高騰を背景に「世界的指導者」と標榜されるまでに上がったプーチンの星も、2008年以降は原油価格低迷を背景に迷走を始めようとしている。実質可処分所得は既に6年続けて下降している。
これまでロシア政治の流れを言い当てたことで有名なモスクワ国際関係大学のヴァレリー・ソロヴェイ教授は最近、マスコミで「1990年のように、国民は官僚達に苛立ちを感じている。自分たちの所得が上がっている時には見逃してきたのだが、今では官僚達の上から目線の発言、腐敗の全てが怒りの対象となる。問題発言はSNSで直ちに拡散される」 、あるいは「年金改革等で、国民の堪忍袋の緒は切れ、国民はプーチンに怒りを感じて攻撃的になり始めている。1989年と同様、何かを根本的に変えないと駄目なのだ、今の体制は必然ではない、変えていいのだ、という意識が広がっている・・・変化が始まった」 と言っている。つまり1989年のゴルバチョフ末期、国民が共産党の統治に不信感を抱き、「国の富を牛耳る共産党を倒せば自分達の生活は良くなるだろう」と思い始めた時期を思わせる、というのである。
また、プーチンの力が衰えているために、「利権確保をめざして『万人の万人に対する仁義なき闘争』が始まろうとしている。大衆の不満を利用する者が増えるので、集会、デモの類が増えるだろう」と予測する向きもあり、事実諸方でライバルを陥れての逮捕が起きている他、集会の類が増えている。
こうした中、クレムリンによる社会統制力は落ちている。6月7日には、警察幹部の汚職を摘発した記者が、当局に「麻薬所持」をでっちあげられて逮捕されたが、6月10日には大手三紙を筆頭に(1面トップに同じ仕様の記事を掲載)全国の多数メディアが彼の釈放を要求、遂にはプーチン自身が介入して記者は釈放され、彼の逮捕を仕組んだ警察幹部2名は解任された。これは、ペレストロイカ末期、マスコミが世直しに向けて大きな発言権を持っていた時期を想起させるものである。
そして9月には統一地方選が行われるが、与党の「統一」は党員の腐敗、無能、保守体質で社会の支持を失っているため、16の改選知事のうち6個所では当局の候補は無所属で立候補する 。既に地方の市レベルでは、無所属新人が選ばれる例が増えている。
つまり、青年のプーチン離れや新思考は、問題の一角でしかない。「プーチンのレームダック化」こそ、今の最大の問題であるように思われる。
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