世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月5日

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 プーチン政権は7月1日の改憲についての国民投票で約80%の支持を得た。そのことだけを見ると、盤石な国民の支持を得ているように見えるが、必ずしもそうではないのではないか。

dicus63 / iStock Editorial / Getty Images Plus

 ハバロフスク州のセルゲイ・フルガル知事逮捕をきっかけに、ハバロフスク市で7月11、18日に起こった大規模デモは、このことをよく示している。州の全人口約60万人のうち数万人がデモに参加したという。これは同州で過去最大規模のデモである。

 フルガル知事は、2018年の選挙で、与党「統一ロシア」への抗議票の波に乗って当選し、高い支持を集めてきた。治安当局は、そのフルガル知事を、木材などを取引していた15年前に殺人に関与したという容疑で逮捕した。しかし、エコノミスト誌の7月18日付けの記事‘An unlikely local hero in Russia’s Far East’によれば、ハバロフスクで中央の言い分を額面通り信じている人はほとんどいない。1990年代、ビジネスと犯罪の結びつきはよく見られ、特に極東ではそうだった。しかし、なぜ治安当局はフルガルの犯罪に行動を起こすのに15年もかかったのか。同記事によれば、クレムリンは単に彼が選挙で勝ち、プーチンよりもこの地域で人気が高いことに復讐しているのではないかと疑っている。ハバロフスクの側は、プーチン政権が連邦主義を後退させ、地域から財政と天然資源の支配権を奪うなど、地域の誇りと自立性を尊重しないで来たことに反発があるという。

 ハバロフスク以外でも、ロシアの北のネネツ自治管区で同自治管区をアルハンゲリスク州と合併させるとの中央の決定に対し抗議活動が起きている。ロシアは連邦国家であり、連邦主体の自治をどれだけ容認するかは難しい問題であるが、プーチン政権は中央集権志向が強く、自治体との軋轢を生じさせている。

 7月1日のロシア憲法改正は、多くの改正案をすべてパッケージにして賛否を問うたが、そういうやり方で国民の真意が測れるとは思えない。このパッケージの中にロシアの国民にアピールする年金増額の可能性、領土割譲禁止、ロシア人の保守的志向(同性結婚否定など)の確認などを盛り込んで、賛成票の増加を図り、プーチンの任期撤廃など、プーチンのための改憲を実現させた。さらに、投票箱を家庭にもっていって投票させるなどのやり方にも問題があった。

 この改憲で、ロシアの新しい未来が開かれたとの感覚はロシア人にはなく、これまでの統治が継続されるとの閉塞感の方が強いように思われる。

 今後、低い石油価格の継続およびコロナウイルスの感染拡大とその抑制のための措置で経済がおかしくなり、国民の生活が苦しくなると、プーチン政権への不満は高まってくると見てよいのではないか。7月1日に改憲についての国民投票をコロナウイルス感染が拡大するなかで、行ったのは、今後プーチンの支持率が下がってくることをクレムリン自身が予期したからとも考えられる。

 ロシアでの革命的騒動はモスクワとサンクトペテルブルグで起こってきたという歴史がある。したがってハバロフスクでの抗議はロシアでの革命的騒動にはつながりにくいと考えられる。ロシアでは中国とは異なり、農村が都市を包囲するようなことは起こらないが、今度の国民投票でもモスクワ、サンクトペテルブルグでのプーチン支持はそれほど強くないことが明らかである。これを念頭に置いて、今後のロシア情勢を見ることが必要であろう。

  
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