2022年8月17日(水)

中東を読み解く

2021年2月7日

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ネタニヤフとムハンマドの憂鬱

 無視されたイラン同様、トランプ前政権との間で最強の同盟関係を誇示してきたイスラエルのネタニヤフ首相のショックも大きい。バイデン大統領は外交方針で「最も親しい友人の多くの指導者と会談した。同盟関係は米国の最高の資産」と述べ、それらの友人として、カナダ、メキシコ、英国、フランス、ドイツ、日本、韓国、オーストラリア、北大西洋条約機構(NATO)を挙げた。

 関係が最悪だったオバマ政権時代でさえ、イスラエルはNATOの代わりに友人に含まれていた。だが、今や「最も親しい友人」から除外されたのだ。バイデン氏はオバマ政権の副大統領で、ケリー国務長官(当時)を中心に中東和平に尽力した。イスラエルにはユダヤ人入植地の停止を強く要求、ネタニヤフ首相と対立した。今回のイスラエル無視は明らかにこうした関係の影響を引きずったものだろう。

 汚職容疑で刑事被告人でもある首相は連立政権が崩壊、3月23日に総選挙を控える身だが、トランプ政権との強力な関係を売り物にして、政治的な延命を図ってきた。コロナ禍対策でも世界に先駆けてワクチン接種を推進するなど一時急落した支持率も回復傾向にある。だが、選挙を前にした重大な時期の、バイデン大統領のイスラエル軽視は首相には大きなマイナス材料に他ならない。

 イスラエルと並んで打撃を被ったのはサウジラビアを牛耳るムハンマド皇太子だ。バイデン大統領は外交方針で、サウジアラビアの介入するイエメン戦争を「終わらせなければならない」と断言、武器売却などサウジへの戦争支援を停止することを発表した。イエメン戦争では、民間人を含め犠牲者が約25万人にも及び、世界最悪の人道危機になっている。

 バイデン政権は先月、サウジに対する4億7800万ドルに上る精密誘導弾の売却を停止しつつあることを明らかにしていた。大統領はイランの脅威などからサウジを守る防衛支援を続けていくとしたが、イエメン戦争介入はムハンマド皇太子が主導したもので、皇太子のメンツがつぶれたことは間違いない。

 ムハンマド皇太子はトランプ氏の娘婿のクシュナー前大統領上級顧問との個人的な関係を強化して前政権から支持を受けてきた。2018年のサウジ反体制派ジャーナリスト、カショギ氏暗殺事件では、ムハンマド皇太子が命じて実行されたとする疑惑が濃厚となり、窮地に陥った。しかし、トランプ氏が皇太子を擁護し、国際舞台への復帰に手を貸した。

 バイデン大統領は選挙期間中からサウジの人権弾圧に批判的で、トランプ氏が選挙に敗れて退場すれば、米国との関係が冷却化すると見られてきた。大統領はサウジと関係の深いアラブ首長国連邦(UAE)に対する戦闘機などの武器売却を吟味することを明らかにしている。トランプ前政権と親しかったイスラエル、サウジ、UAEはバイデン政権の登場で、根本的な外交戦略の見直しを迫られている。

  
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