2024年4月20日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年2月17日

「メークドラマ」の機会を逃した民主党

 トランプ前大統領に無罪評決が出たもう1つの理由を挙げましょう。弾劾裁判最終日の後半に、民主党は裁判の流れを大きく変え、共和党からの造反者を増やす絶好のチャンスを得ました。爆弾証言が飛び出したのです。

 合衆国憲法を専門とする元アメリカン大学名誉教授で、主任弾劾管理人を務めるジャイミー・ラスキン下院議員(南部メリーランド州)は、トランプ前大統領と共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務の会話の内容を紹介しました。ラスキン下院議員によれば、会話の内容は共和党のジェイミ・ヘレーラ・バトラー下院議員(西部ワシントン州)がマッカーシー院内総務から直接聞いたものでした。中道穏健のバトラー議員は下院での弾劾裁判でトランプ有罪に投票した10人のうちの1人です。

 驚いたことに、暴徒が議会を襲撃しているとき、トランプ前大統領はマッカーシー院内総務に対して、議会を占拠している人々は自分の支持者ではなく、左派の過激派集団アンティファだと語ったというのです。

 しかも、トランプ氏は「人々(暴徒)はあなたよりも選挙結果に動揺し怒っている」とマッカーシー氏に述べ、両氏は罵倒し合ったというのです。弾劾管理人が主張したように、トランプ氏が暴動を止めようとしなかった確固たる証拠になります。同時に、トランプ氏は暴徒に対して迅速に対処するために行動を起こしたという弁護団の議論は妥当性に欠けることにもなります。

 ラスキン下院議員はバトラー議員を証人として召喚することを要求しました。トランプ前大統領を強く支持する共和党のリンゼー・グラム上院議員(南部サウスカロライナ州)が、この要求を支持し、バトラー氏の召喚に賛成票を投じたのです。弾劾裁判の流れが分かる瞬間でした。

 しかし米ワシントン・ポスト紙によれば、バイデン大統領と最も関係が近いと言われている民主党のクリストファー・クーンズ上院議員(東部デラウェア州)が召喚に強く反対しました。クーンズ議員は無罪評決後に、米ABCニュースのインタビューで、「証人を500人召喚しても結果は変わらないと判断した」と回答しました。同氏は追加経済対策案の可決と閣僚人事の承認を最優先にしているので、証言による弾劾裁判の長期化を望んでいなかったのです。

 結局、バトラー下院議員の召喚は実現しませんでした。バトラー氏から多くの爆弾証言が出た可能性は否定できません。民主党は自ら「メークドラマ」の機会を逃がしました。


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