去年の4月に、ソニーがアノニマスにDDoS攻撃を受けました。この事件は、アノニマスの攻撃以降、他団体が攻撃をしたり、情報を流失させたりしたので、決してアノニマスだけであれだけ大規模な事件を起こしたわけではありませんが、何にせよソニーは大きなダメージを受けました。
そもそもソニーが攻撃を受けたのは、あるハッカーに対する処罰があまりにも厳しかったことに起因します。ソニーはあるハッカーの行為に対し法に訴え、法に則った行動をとりました。しかし、しばしば人は法に則っているからといって、自らの倫理観では許されるべきではないと思うことがあるわけです。たとえば最近話題になった生活保護の問題がまさにそうです。また、ネットでは意見が増長しやすい傾向があり、ただ法に則っているだけでは解決しない、あるいは悪化してしまう問題があるかもしれません。
これからさらに社会はグローバル化します。また国家の統治能力が落ちていることは自明です。そうすると一国の法体制のなかだけで何かを判断するのは難しい時代になるでしょう。
また、法を厳密にしたところで簡単に法が破られていくことになる。そういった世の中では、たとえ企業に勤める人であっても、ネットの動向に注視し、どういう対策があるのか、視野を広く持つことが大事ではないでしょうか。
――これからのハクティビズムの可能性については?
塚越氏:ウィキリークスまでの正統派ハクティビズムは、昔ながらのツールをつくるという意味では相当な技術が必要です。一方、アノニマスにおいても、ある程度の役割をこなそうと思えば一定の技術が必要です。しかし、そのような技術がなくとも、デモに参加したり専用ツールを用いるだけなど、アノニマスに参加することは可能です。また、社会運動を始めようと思っていて少しでもIT技術を持っている若い子が集まれば、まさに「ハック」という言葉通り、最小限の努力で最大限の効果を発揮することができます。そうした意味で情報技術は、利用価値が非常に大きいのではないかと考えています。
――本書出版後の反響は?
塚越氏:ITの専門家の方々からは技術的な部分で補足のコメントを頂きました。本書はあくまで新書ですし、一般向けに書きました。一般の方からは、ウィキリークスやアノニマスなどの現状がサラリと読めてよくわかったと好評をいただいています。本書を読み、本書を叩き台にして、ハクティビズムやハッカーの社会運動や政治運動に対する議論が巻き起これば著者冥利につきます。
塚越健司 (つかごし・けんじ)
1984年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍中。専攻は情報社会学、社会哲学。研究対象は、思想家ミシェル・フーコーからウィキリークスやハクティビズムなど。
共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)がある。
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