苦しい弁明にしか聞こえなかった。26日に東京・講道館で行われた日本柔道連盟(全柔連)会長・山下泰裕氏の記者会見についてである。全柔連管理職の前事務局長が昨年4月、事務局内で新型コロナウイルスの集団感染が発生した経緯を調査していた過程で威圧的な言動を繰り返すなどパワーハラスメントと疑われる行為が発覚。
日本オリンピック委員会(JOC)の会長も兼務している山下氏は同日の会見で「職責を果たせていなかった。私の責任が大きい」とした上で「人並みの人間でいろんな重職を務めていくのは私には難しい。問題があることに全く気付かなかったことは恥ずかしく責任を感じている」と続け、全柔連会長の辞任を示唆した。
要はJOC会長職との兼務に忙殺され、全柔連会長としての職務は疎かになっていたという説明だ。このパワハラ疑惑に関して一連の流れを踏まえていれば到底納得のできる会見の内容ではない。これでは全柔連の職から身を引く可能性をチラつかせ、すべての幕引きを図ろうという魂胆だととらえられても仕方がない。問題は山下氏がパワハラ疑惑について「全く気付かなかったこと」ではない。その対応だ。
全柔連は今月、事務局長の交代を唐突に決定している。当初は理由を公表していなかったが、一部報道によって背景にパワハラの疑いがあることが発覚。実は内部告発からコンプライアンス委員会の調査によって昨春の前事務局長によるパワハラ行為を指摘する報告書が昨年11月26日、会長の山下氏らに提出されていたという。
対応は会長の山下氏に一任されていたものの問題の前事務局長が今年1月に自己都合で退職して音信不通となり、連絡が取れなかったため「パワハラ認定ができなかった」と釈明し、公表も必要ないと一部役員だけで判断したとのことだった。
山下氏の説明は誰の目にもちぐはぐさが目立ったが、隠蔽の意図については「会議で公表の必要はないということで一致し、コンプライアンス委員長にも伝えて納得してもらっている」などと最後まで否定し続けていた。
だが、パワハラと疑われる行為の報告を受けた会長の山下氏が対応を一任され、本人と連絡が取れないから公表しなかったというのは、まさしく「隠蔽」と同じ――。そう見られてもやむを得ないだろう。
もし本当にパワハラ認定できないから公表の必要もないと判断したという程度の認識で受け止めているならば、それは全柔連内部で「問題」になっていないはずであり「気付かなかったことは恥ずかしく責任を感じている」と口にすること自体も大きく矛盾するのではないだろうか。パワハラ疑惑そのものよりも玉虫色の決着で沈静化を目論む姿勢が見え隠れしたことに対し、釈明どころか多くの人たちから不信感を倍増させる逆効果へとつながってしまった感は残念ながら否めない。