2024年12月7日(土)

Wedge REPORT

2021年3月12日

「釜石桜満開牡蠣」缶詰

 3月12日、「釜石桜満開牡蠣(カキ)」缶詰(かんづめ)が発売される。コロナ禍のなか、まさに奇跡とも言えるタイミングで誕生した一品だ。

 10年前の東日本大震災で、岩手県釜石市も大きな被害を受けた。ただ、それ以前から鉄鋼産業の不振などから〝鉄の町〟釜石にも暗い影が差すようになっていた。そんなとき、鮮魚の仲買人をしながら市内でレストラン「浜結」を営んでいた三塚浩之さんの元に、カキの生産者である佐々木健一さんから「カキが売れないので、なんとかできないか?」という相談があった。2009年のことだ。三塚さん自身、魚が売れなくなりつつあることを実感していた。

 販路開拓や品物のブランド化をしていかないと今後、生き残ることが難しくなる――。三塚さんが企画・販売、佐々木さんたちが生産を行う形で、「かまいし水産振興企業組合」を立ち上げた。

 そんなとき縁あって、東京のど真ん中にある千代田プラットホームで、「第1回かまいし牡蠣フェア」(2010年3月)を開催した。これをきっかけに東京のレストランなどへの販路を開拓していこうとした矢先に、東日本大震災に見舞われた。佐々木さんが住む集落は消滅するほどの被害を受け、三塚さんのレストランも流され、鉄筋コンクリートの自宅は3階部分まで波が押し寄せた。

 そして翌2012年、再起を図るべく、カキの養殖を再開した。千代田プラットホームの支援も受ける形で、生産者、消費者、飲食店(協力店)を結ぶネットワークの構築を目指して「里海プロジェクト」を開始した。順調にサポーターを増やしていた矢先の2016年、今度は台風に見舞われ、流木によって養殖設備が壊滅的な被害を受けた。「もはやこれまでか」という所まで追い込まれたものの、ボランティアなどの支援を受ける形でなんとか持ちこたえた。

 やっと順風が吹き始めたかと思いきや、またもやコロナ禍に見舞われることになった。釜石のインフルエンサーになってもらいたいという思いのもと「生産現場を見に来てくれたお店にしか卸さない」というルールを守りながらも、取引先のレストランは東京をはじめとして20店を超えるまでになっていたが、今度は、そのレストランが営業できないという事態となった。

 2020年~21年の冬シーズンに用意したカキは1万5000個。20年12月「こんな状況だからこそ、逆に新しいチャレンジをする機会にしよう」と三塚さんは決断した。直販で販売するカキを2500個に絞り、残りで缶詰を作ることにしたのだ。

 千代田プラットホームで定期的に行っていた普及イベント「釜石牡蠣大学」で知り合った男性が、陸前高田で缶詰工場の経営者に就任したという偶然のタイミングも重なって、かねてから温めていたプランを実行に移す決断をした。

 これまで「生カキ」の販売をしてきたが、10個入りのカキを、生産者の佐々木さん、佐々新一さん、三塚さん、三塚さんの奥さんの4人で、パッキングから配送手続きまで全て行ってきた。その作業が大変なうえ、生ガキは最低3日で食べないといけない。しかも、イベントごとで出店しても、「ノロウイルス」などの疑いが起きれば、イベント自体の開催が見送られるということも経験していた。

 このようなことがあり、かねてから「缶詰があればいいなぁ」と考えていたのだ。ただ、生産量を増やすことはリスクでもあり、これまで実行に移していなかった。そして今回「ピンチをチャンスに変える」つもりで、実行に移した。

 通常であれば缶詰の最低ロットは数万単位となるが、そこを交渉して5000個で応じてもらえることになった。質にもこだわり、カキと塩だけの水煮缶だ。ひと缶4粒入りで、3缶入って税込5400円。生カキがひと箱10個セットで5638円(税込)+送料なので、〝値ごろ感〟を意識した。三塚さんは銀行から融資を受け、パッケージのデザインも手掛けてたったの3カ月で販売にまでこぎつけた。

「1年産の種ガキを仕入れて、釜石市の大槌湾で2年、計3年がかりで育てられたカキの味を是非とも味わってみていただきたい」と三塚さん。


新着記事

»もっと見る