2024年2月25日(日)

韓国の「読み方」

2021年3月24日

 日本側が注意すべき点は、バイデン政権が同盟と人権の両方を重視しているということだ。政治的解決策として慰安婦合意を評価する一方で、慰安婦問題そのものに対する米国の認識は極めて厳しい。ブリンケン氏が語った「甚だしい人権侵害」という認識は、オバマ大統領(当時)が2014年に訪韓した際の記者会見での発言を踏襲したものだ。オバマ氏はこの時、「戦争中のことであったとしても極めて衝撃的で、甚だしい人権侵害だ」と指摘し、「過去を正直かつ公正に認識しなければならない。安倍晋三首相や日本国民もそのことを分かっているはずだ」と述べている。オバマ政権下では2012年に、国務長官だったヒラリー・クリントン氏が慰安婦問題についての省内ブリーフィングで高官に「性奴隷」という言葉を使うよう求めたと報じられもした。

 私が当時取材した米外交問題評議会(CFR)のジェイムス・リンゼイ上級副会長は、米国で慰安婦問題への批判が強い背景にあるのは「女性への性暴力が大きな政治的関心を呼ぶようになった世界的な流れだ」と話した。冷戦終結後に発生した1990年代の旧ユーゴスラビア内戦で「民族浄化」として集団レイプが起きたことなどで、紛争下の性的被害に対する国際世論の関心が高まった。それが慰安婦問題への欧米の認識に大きな影響を与えている。制度そのものが許されないという認識だから、「強制連行はなかった」などという主張は反発を呼ぶだけだ。日本側の立場を説明するにしても、相手に耳を傾けさせる説得力のある論理でなければならないのは当然だろう。

クアッドと同様に重要な日米韓

 日韓歴訪で強調された日米韓連携についても考えておきたい。最近は対北朝鮮政策に限定して語られているが、もともとは冷戦体制下での東アジアの安全保障を考えた枠組みだ。1965年の日韓国交正常化が実現したのも、こうした側面が大きい。

 米国は当時、ベトナム戦争への泥沼の介入を始めていた。ブッシュ(子)政権で国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ氏は日米韓関係を「疑似同盟」と評した著作で、日韓国交正常化の背景を次のように説明する。「最も重要なのは、米国がベトナムへの介入の度を深めていたために、東アジアに反共の前線を築くためには両同盟国の間を早急に和解させることが最優先とされたことである。つまり、両国間に歴史的反目があろうと、両国あるいはリーダーシップが否定的、肯定的な姿勢をとろうと、この時期に条約は妥結していたのである」(ヴィクター・D・チャ『米日韓 反目を超えた提携』)。

 日本にとっては、北朝鮮とその背後のソ連に対する緩衝地帯として韓国の存在はありがたかった。1969年の日米首脳会談で発表された共同声明には、「(佐藤栄作首相は)韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要であると述べた」と盛り込まれた。「韓国条項」と呼ばれた一文で、70年代には日米首脳会談での発表文にたびたび盛り込まれたものだ。

 1961年のクーデターで朴正煕が政権を握ったばかりの韓国にとっては、経済的なメリットが大きかった。チャ氏は、外相(外務部長官)として交渉を妥結させた李東元からの聞き取りに基づいて「朴正煕は、李東元を外務部長官に指名するにあたって、日本との国交正常化を最優先課題とし、この政策の目的は日本から過去への陳謝を引き出すことではなく、国家経済を成長させることだと指示していた」と記している(前掲書)。国交正常化によって日本から5億ドルの資金供与を得た朴正煕は、民主化より経済発展を優先させる開発独裁によって「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現させた。

 ただ冷戦終結とともに、韓国の対外認識は大きく変容した。振れ幅は、日米と比較にならないほど大きい。それは、この半世紀に経験した変化の大きさを考えれば当然だ。日米両国は半世紀前にも先進国だったが、当時の韓国は世界最貧国の状態から抜け出したばかりだった。これほど大きな社会的変化を遂げた国で、人々の意識が変わらない方がおかしい。

 対北朝鮮では、21世紀の韓国は圧倒的な優越感を背景に北朝鮮を見るようになった。冷戦下では南北が国力を競っていたのだが、今ではそんなことを覚えている人は少ない。自分たちの方が上だという感覚が強いから、北朝鮮の脅威と言われてもピンとこない人が増えているように見える。一方で、いったん豊かになってしまったが故に、経済的負担の大きさを考えて統一には尻込みする人が多くなった。世論調査で早期統一を望むという回答は1割程度にすぎなくなった。


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