TeslaとWaymoの対立から見えてくるもの
自動運転を巡るTeslaとWaymoの対立からは、ものづくりからスタートしたTeslaとIT企業からスタートしたWaymoのスタンスの違いがくっきりと見えてくる。
Teslaはあくまで高性能のEVを開発・量産し、EV及び周辺サービスの販売によって収益を上げることをビジネスモデルとしている。ただ、従来の自動車メーカーが車両及び車載器(カーナビなど)の販売のみを収益源としていたのに対して、TeslaはEVだけでなく、太陽光パネル、家庭用蓄電池、充電器、急速充電サービスといったエネルギー機器やエネルギー関連サービスを手掛けるとともに、今回ご紹介した運転支援システムのソフトウェアの販売などでも収益を上げている。FSDが完成してロボタクシーが可能となった暁には、個人が所有しているTesla車のライドシェアのマッチングを行うモビリティサービスを手掛ける可能性もある。
それに対してGoogle系のWaymoはあくまでサービスに徹するスタンスを貫いている。Google自体はスマホのPixelやPCのChromebookなどを手掛けているが、ハードウェアで儲けるためというよりは主戦場であるOSやサービスでの支配力を維持するためにハードウェアの開発能力を持ちづけることが真意であると思われる。Waymo自身もクルマの開発には深く入り込んでいるが、決して自動車メーカーの道を歩むつもりはないものと見受けられる。
今年に入ってからAppleがEV分野に進出するのではないかという報道が複数出ている。ただ、現状を見ているとスマホやタブレットにおけるGoogle対Appleの関係と近いのが、Waymo対Teslaだと感じる。
さて、話を自動運転に戻そう。
マスクCEOとしては1台1万ドルのソフトウェアアップデートを世界中のTeslaオーナーに販売することで巨額の利益を狙っていたと思われる。また、ロボタクシー事業への参入によって世界に100万台あるTesla車をロボタクシー化し、Uber、Lyft、Waymoなどによって構築されてきたモビリティサービスサービスの世界を一気に塗り替えるつもりだった可能性もある。
しかし、WaymoからはTeslaのFSDでは絶対に完全自動運転を実現できないと批判され、NTSBからはFSDをこのまま放置することは交通安全上の問題であり、しかるべき規制を行うべきと指摘されていることからマスク氏の構想の実現はかなり厳しいと言える。
NTSBの警告によってNHTSAがどういう動きを取ることになるのか、その結果が自動運転を巡るTeslaとWaymoの対立にどういう影響を与えるのか、今後の動向を引き続き注視していきたい。
アメリカの動きから一つ言えることは、クルマというハードウェアから自動運転にアプローチする勢力と、モビリティサービスというサービスから自動運転にアプローチする勢力の2種類があり、それぞれの動きを把握しながら規制当局が適切な制度設計を進めようとしていることだ。ホンダが世界に先駆けてLevel3の自動運転車を発売したことは大変喜ばしいことだが、日本でももう少しサービス側からのアプローチを強力に進められる状況にならないものかと思ってしまう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。