10月23日菅総理大臣は第203回臨時国会の所信表明演説で2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した。カーボンニュートラルに向けた取り組みは欧州が先行しており、カナダや北米の主要都市なども積極的に取り組んでいる。京都議定書以降、低炭素への取り組みが若干立ち遅れていた印象のある日本が戦線に復帰するのではないかという期待を持たせる宣言だ。
菅総理のカーボンニュートラル宣言を実現するために、政府では急ピッチで対策の検討が進められているが、そのような中、2030年代半ばにガソリン車を禁止するという政府方針が各種メディアで報道された。また、12月8日には小池東京都知事が2030年までに都内で販売される乗用車の新車を100%非ガソリン化することを目指すと表明した。
これらの報道や表明を受けてメディアや業界では電気自動車へのシフト=EVシフトが突然注目され始めている。EVベンチャーを立ち上げた私としてはEVへの関心が広まることは大いに歓迎したい。しかし、国や大都市でカーボンニュートラルを実現する方策として、クルマをEVにするのか、ハイブリッドにするのかといった議論だけをするのはあまりにも視野が狭いと感じる。
カーボンニュートラルを検討する際に先行事例として紹介したいのが、デンマークのコペンハーゲンだ。コペンハーゲン市では2025年までにカーボンニュートラルを実現するため、自家用車に依存しない交通システムへと大改革する取り組みを街全体で進めている。写真にあるのは2018年にコペンハーゲンを訪問した際に撮影したものだが、市内中心部を自転車でくまなく移動できるようにするため、自転車専用道も含めて自転車道のネットワークを整備している。
また、自転車専用の信号システムを導入し、混み合う都心部では時速15kmで走行し続ければほとんど赤信号に非掛からないような仕組みを入れている。自転車以外にも無人運転の地下鉄を整備するなど、交通システム改革に800万ユーロ(約10億円)を投資して、CO2を大幅に削減できる市内交通システムへと変貌させようとしている。
このような自転車道のネットワークが整備されたことで、コペンハーゲンの多くの市民は自転車で通勤・通学するようになり、片道10kmを超える距離を自転車で移動する市民も少なくないという。訪問した当時も、通常の自転車だけでなく、子どもを前に載せた三輪自転車を必死でこいでいる女性の姿を何度も見かけた。
日本では政府・行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション)というと、行政手続きのオンライン化ばかりが注目されているが、海外では“街のDX”を進めることで交通システムを改革し、カーボンニュートラルや交通安全につなげていく取り組みも進められている。