2024年4月20日(土)

CHANGE CHINA

2021年4月16日

苦難の英雄支える女性

 ただ、許先生の書く文章は、文語的表現が多用され、外国人はもちろん中国人にも難解だ。その彼が広い支持を得たのは、支援者の努力も大きい。その1人が友人の耿瀟男さんだ。

許章潤氏(右)と彼を支援した耿瀟男氏(左)

 耿瀟男さんは北京の中央戯劇学院を卒業したメディア人で、出版社を経営し、14年にはプロデューサーとして手掛けた『遥かなる家』が東京国際映画祭に出品された。19年、国際交流基金の招待で日本に滞在、筆者もその時に知り合い、日中文化交流の問題などについて議論、帰国後もSNSで交流を続けていた。

 中国の知識人と幅広い人脈のある耿さんは、許先生の苦境を知り支援。発言の場が封じられ、生計の手段も奪われた先生のために、欧米のメディアなどで彼の人柄や、その価値を伝え、経済的支援にも奔走した。

 耿さんはラジオ・フリー・アジア(RFA)のインタビューで、許先生について「決して世渡り上手な人ではありません。でもその高潔な人柄が、人々の尊敬を集めているのです」と語り、さらに自らの役割について次のように語っている。

 「私は自分の能力、才能に限界があり、人々を指導するような人物ではないと分かっています。だが大人物ではなくても果たすべき役目はある。私は英雄ではありませんが、英雄に献花し、歓呼し、身代わりとなることはできるのです」

 だが耿さんは昨年9月、「違法経営」という全くのでっちあげの罪で当局に拘束された。耿さんの危機を知り、許先生や彼女を知る国内外の学者、弁護士、ジャーナリストが釈放を呼び掛ける声明を発表、阿古さんや筆者も名を連ねた。耿さんは「違法経営罪」で起訴され、今年2月9日に禁錮3年の実刑判決を受けた。法廷で彼女は一切自分を弁護することなく罪を受け入れたが、これは夫(執行猶予付き禁錮2年6カ月)や従業員をかばうためだったと言われている。

 「自由はただで手に入るものではありません。私は苦難を抱える英雄のために僅かなことでもしたい。その結果危険を負い、利益を失っても、それは自由のために支払うべき対価なのです」。許先生の支援に奔走した彼女を、知人は「侠女」つまり「義侠心あふれた女性」と呼び、一日も早い解放を望んでいる。

 習近平体制で強まる統制の中で、許先生や耿さんが言論の自由を守るため選んだ苦難の道が、いつか報われると信じたい。だがそのためにも海外、特に隣国である日本社会が彼らの言動や境遇に関心を持ち、声援を送り続けることが必要だ。(本稿は筆者の個人的見解であり、所属組織を代表するものではない)

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PART 3     不採算確実な中国ラオス鉄道 それでも敷設を進める事情    
PART 4  「援〝習〟ルート」貫くも対中避けるミャンマーのしたたかさ  
PART 5     経済か安全保障か 狭間で揺れるスリランカの活路       
PART 6    「中欧班列」による繁栄の陰で中国進出への恐れが増すカザフ
COLUMN   コロナ特需 とともに終わる? 中欧班列が夢から覚める日
PART 7      一帯一路の旗艦〝中パ経済回廊〟
PART 8     重み増すアフリカの対中債務
PART 9     変わるEUの中国観 
PART10    中国への対抗心にとらわれず「日本型援助」の強みを見出せ

  
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◆Wedge2021年4月号より


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