外国の関与はあったのか
ハムザ前皇太子の母親であるヌール妃は「真実と正義が邪悪な中傷に勝るよう祈る」と軟禁や逮捕に憤りを示し、また前皇太子に近い部族は「逮捕は不当。ヨルダン史上の暗黒の日だ」と政府を批判した。今後の国王や政府の対応次第で、国が大きく分裂し、周辺諸国に悪影響が及ぶ懸念も出ている。
今回の事件の真相はなお見えていないが、問題は外国勢力の関与があったかどうかだろう。逮捕者の中には、王室のメンバーの1人であるシャリフ・ハッサン氏や王宮府のアワダラ元長官が含まれていると報じられている。アワダラ氏は元財務相でもあり、アブドラ国王の命令で経済改革を推進してきた人物だ。
特にアワダラ元長官はヨルダン王室のサウジアラビア特使を務め、ムハンマド・サウジ皇太子のアドバイザーの立場にあり、サウジのパスポートも保有するなどサウジとの関係が太いことで知られていた。しかし、アブドラ国王自身はトランプ前米政権とサウジが進めた中東和平提案に強く反対、サウジ主導のイエメン戦争にも批判的だった。
だが、現在のところ、サウジが事件に関わった証拠は一切出ていない。サウジ政府は事件後声明を発表し、アブドラ国王の決定や措置を支持すると表明した。ヨルダンの隣国のイスラエルが背後で介在したということも考えにくい。イスラエルのネタニヤフ首相と国王の関係は最悪の状態にあるとされるが、国交のあるヨルダンの安定はイスラエルの安全保障に直結しており、政権交代を画策するメリットは小さいからだ。
資源や産業の少ないヨルダンは米国との関係を良好に維持することで、援助を引き出し、国を運営してきた。イラク戦争の際には、米国の補給基地となり、恩を売った。米国による過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦でも、基地を提供するなど後方支援に貢献した。
米国務省の報道官はヨルダン情勢を注視し、ヨルダン当局者と接触していると述べるにとどまった。バイデン米政権としては、中東への影響力が低下する中、親米のヨルダンが不安定化するのはなんとしても避けたいところ。外国勢力の関与があったかの調査も含め、アブドラ体制を支えることに全力を投入することになるだろう。
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