コロナ禍に終息の兆しが見えず、世界各地でアジア系住民人に対するヘイトクライムが急増している中、ニューヨークのマンハッタンの中心部で3月29日、フィリピン系米市民が黒人の男に酷い暴行を受ける事件が発生した。現場前のビルの中には警備員らがいたが、全く助けようとしなかったばかりか、入り口のドアを閉める始末。その冷たい対応に米社会に衝撃が広がっている。
相次ぐアジア人への暴力
ニューヨーク警察が公表した動画や発表内容などによると、事件が起きたのはタイムズスクエア近くの西43丁目の歩道だ。歩いていた女性(65)の腹部を前から来た大柄な黒人の男がいきなり蹴った。女性が歩道に倒れると、今度はその頭部を思い切り3度蹴った。男は暴行中、「くそったれ、ここはお前がいるところではない」などと差別的な発言を繰り返した。
男はそのまま歩いて立ち去り、女性は病院に運ばれ、入院した。米社会がショックを受けたのは暴行自体もさることながら、現場の前の豪華なマンションの入り口ホールにいた3人の男たちが暴行を止めようとしたり、女性を助けようとするなどの行動を一切起こさなかったことだ。そればかりか、女性が倒れて苦しんでいるのを尻目に、マンション入り口のドアを閉め、知らぬふりを決め込んだことだ。関わりを避けたと見られている。
3人のうち2人はマンションビルの警備員で、ドアを閉めたのも警備員の1人だった。女性は数十年前にフィリピンから来た移民だという。警察は動画を公開し、逃げた男の行方を追っている。ニューヨーク市警のアジア人ヘイトクライム(憎悪犯罪)対策チームは警備員らが暴行を止めようとせず、入り口ドアを閉めたことを厳しく批判した。
事件の後、ニューヨークのブラシオ市長は「恥ずべき暴挙」と、クオモ・ニューヨーク州知事も「恐ろしく野蛮な行為」と非難。バイデン大統領は、「アジア系米国人に対する高まる暴力を看過することはできない。こうした行動は米国的ではなく、止められなければならない」とツイートした。マンションビルの警備会社はドアを閉めた警備員らを停職処分にする措置を取った。
ニューヨークでは最近、アジア系住民に対する憎悪犯罪が相次いでいた。例えば、地下鉄の駅でアジア系の女性が背負っていたバックパックに火を付けられる事件も発生。また地下鉄車内でアジア系の男性が殴られ、唾を吐きかけられる事件も起きており、邦人も含めアジア系住民の間に懸念が高まっていた。警察はアジア系の居住地域に覆面捜査員を配置するなど対応を取っているが、沈静化する気配はない。