2024年12月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2021年5月26日

「プロレスラーならばできる」なんて幻想
するんじゃなかったと思いました

仕込みに時間がかかるハンギングテンダー

 「デンジャースステーキ」の形はごつごつしているように見えるけど、ものすごく柔らかい。だから、女性もお子さんも大丈夫。他のお店の経営者も視察に来て、仕込みの大変さを知るとまねるのはあきらめるようです。1997年の開店時から「デンジャースステーキ」を目玉商品にしているんですが、今はソースを10種類にしています。味のバリエーションを無限にしたいんです。

 国産の肉は、うちとしては扱いずらい。本来、肉は1カ月ぐらいは冷蔵庫で寝かせておくと、とてもおいしい。海外産は、船で運ばれてくるものが多い。成熟した頃に来るからちょうどいい時期。だから、海外産にしています。特にうちで使う部位は傷みやすい。だから、お店に来たら早いうちに仕込むんです。

 仕込みは、本当に体力勝負。開店の頃は慣れないこともあり、1週間で体重が10キロ減りました。1週間で550人のお客さんが来てくれたんです。プロレスよりも労働時間ははるかに長い。開店当初は、一睡もできない日があった。地獄ですよ。「プロレスラーならばできる」なんて幻想。するんじゃなかったと思いました。

 だけど、引退すると他にできることがない。僕らの頃のプロレスは、そんなに収入が多くない。引退の時に300万円しか、手元になかった。もう、ステーキ店で生きていくしかないんですよ。開店前にあるお店で見習いとして働いていた。髪の毛を黒く染めて、わかんないようにしたんですが。

 引退したのに「元プロレスラーだ」なんて、こだわっていられない。開店2年前に結婚し、嫁さんがいたし。開店するとあまりにも肉体的に激務だから、一時期は足の裏がものごく痛い足底筋膜炎になって、普通に立てないし、歩けない。厨房に椅子をもってきて、そこに膝をついて調理をしていましたよ。完治までに4年もかかりました。

厨房で肉を焼く松永光弘さん

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