公金が使われるからこそ「公益性」には慎重になるべき
次に、判決が「公益性」を理由にした助成金の取り消しについて慎重な姿勢を取ったことは、今後の助成金事業の在り方に重要な道筋を示したといえるでしょう。
特に、いったん内定した助成金が取り消されるのは制作サイドにとって大きなダメージになりかねません。公益性を錦の御旗にすれば内定を容易に取り消すことができるとなると、制作側としては助成金の交付を取り消されないため、なるべく当たり障りのないものを作ろうという姿勢を取りかねないということになります。
しかしながら素晴らしい作品というのは、当たり障りのない発想を打ち破ってこそ生まれるものです。時として社会に抗い、牙をむくことが鋭い表現に繋がることもあります。「公益性」を盾に作品の牙を抜き、作品の芸術性を陳腐化するようなことになるのでは本末転倒でしょう。
助成金が公金から支給されているからこそ、むしろ「公益性」を理由にした支給取り消しには慎重になる必要があります。
思考停止を止めて個別の事情を見極めるべきでは
もちろん、薬物乱用は社会にとって深刻な問題であり、薬物乱用防止に向けてどのような姿勢を取るのかは重要な問題です。
助成金の支給をとおして違法薬物に寛容な姿勢を示したとみなされるようなことがあってはならないとする、独立行政法人側の主張には一定程度、頷ける部分もあります。
しかし、薬物問題について真摯に向き合う必要があるからこそ、「出演者が薬物に関わった以上、作品全体が社会にとって悪影響」という思考停止は止めて、個別の事情を慎重に見極める必要があるのではないでしょうか。
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