サムライ弁護士の一刀両断

2021年3月5日

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 ネット上の権利侵害の問題は、サービスの多様化やユーザの拡大により、ますます大きくなっています。

 SNSでデマと結びつくような形で誹謗中傷が拡散され、個人や企業に深刻なダメージを与えるケースも後を絶ちません。最近でもリアリティ番組の出演者が番組の演出により一部の視聴者の反感を買い、苛烈な誹謗中傷に晒され自ら命を絶つという傷ましい事件があったことは記憶に新しいところです。

 このようなネット上の権利侵害には、対抗手段として誹謗中傷を投稿した「発信者」に対して損害賠償を請求することが考えられます。

 この場合、発信者が誰なのかを特定するにあたっては、プロバイダ責任制限法(特定電子通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)に基づく「発信者情報開示手続」により、SNSの運営会社やアクセスプロバイダに対して、住所、氏名やIPアドレスなどの一定の情報(発信者情報)の開示を求めることが可能です。

 もっとも、現在の発信者情報開示手続は手間と時間がかかり、必ずしも使いやすいとは言い難い面があります。

 これに対して、2021年2月26日に発信者情報開示制度の見直しを含むプロバイダ責任制限法の改正法案が提出され、現在国会で審議中です。

 改正法が成立した場合、発信者情報開示手続はどのように変わるのでしょうか。

 なお、今回は成立前の法律の解説ですので、今後の国会での審議の状況によって変わる可能性があることをご了承ください。

(takasuu/gettyimages)

手間と時間がかかる発信者情報開示手続

 現状、発信者情報開示に手間と時間がかかる一番の理由は多くの場合、発信者を特定するまで、2段階、3段階の手続を取らなければならないことにあります。

 誹謗中傷の発信者がSNSなどに投稿する場合、PCやスマートフォンなどの端末からインターネットを通してサイトにアクセスし、サイトから記事を投稿します。

 この場合、発信者情報開示を請求する相手方には、(1)記事を投稿したSNSを運営する「コンテンツ事業者」と、(2)発信者がネットに接続するときに使ったプロバイダや携帯電話会社などの「アクセスプロバイダ」が考えられます。

 このうち、住所や氏名などの身元の特定に直接繋がる情報を持っている可能性が高いのは、発信者が契約している「アクセスプロバイダ」のほうです。

 SNSを運営する「コンテンツ事業者」にもアカウント開設のため、一定の個人情報を登録することになりますが、一般的には住所などは登録されないことが多いです。また、捨てアカから投稿するような場合には、まともな登録がされていないことのほうが多いでしょう。

 他方で、SNSの投稿自体からは、運営会社でない限り発信者がどのアクセスプロバイダを使用したかは分かりません。

 そうすると、発信者の特定のためには、第1段階としてコンテンツ事業者に対してIPアドレスなどのアクセス情報の開示を求め、そこで得られた情報をもとにアクセスプロバイダを割り出し、第2段階としてアクセスプロバイダに対して、契約者である発信者の氏名・住所などの開示を請求する必要が出てきます。

 さらに、格安スマホから投稿されたような場合など、発信者が契約している電話会社と、通信に使われた設備を実際に保有している会社が異なっていることがあり、そのような場合には第3段階以降の手続が必要です。

 現行法では、このような複数回の手続を同時並行で行うことは難しく、発信者の特定が可能かどうか分かるまで、相応の手間と時間がかかってしまうのが実情です。

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