この日、JALの米澤章執行役員は、経営破綻に対する陳謝から入り、離島路線を多く抱える現状などをよどみなく説明し、「地域ネットワークを維持する貢献度を見ていただきたい」と主張した。米澤氏はプレゼンテーションのうまさに定評がある。ANAの挑発に乗れば、泥仕合は目に見えている。あえて低姿勢で受けに回る姿勢を貫いた。
2社が激しいつばぜり合いを演じたのには理由がある。「破綻事業者」をどう取り扱うか、現行の配分基準には規定がないためだ。
これまでの発着枠拡大では、新規参入組に優先して一定枠を配分し、残りをJALとANAで分け合っていた。だが、実際には出来レースのようなものだった。形式的には、経営指標や地域路線への貢献度など10項目からなる基準で評価するとなっているが、大ざっぱな内容に過ぎない。例えば、安全性の評価項目は「乗客の死亡を伴う事故が過去5年間で発生していないこと」である。
ところが、死者を出した航空機事故は、御巣鷹山に墜落した1985年の日航ジャンボ機事故以来、27年間起きておらず、差がつくはずがない。項目ごとの評点も◎、○、×の3段階だ。国交省関係者は「もともと2社間で大きな差がつかないようになっている」と認める。
羽田の国内線は1日当たり440便。現在のシェアはJALが41・3%、ANAが37・4%で、JALが20便ほど多い。これまでの配分結果を見ると、05年4月がJAL11対ANA9、05年12月が2対3、10年10月が7対9といった具合で、「差をつけない」との証言を裏付けている。
ゲタを預けられた委員たちはどうかと言えば、これまでのところ反応は分かれている。
「血のにじむような経営努力をしている。JALに不当な扱いをすることには反対」とするJAL擁護論が出る一方で、「過去5年間の経営実態を評価する以上、破綻の事実は無視できない」とANA寄りと取れる意見もあり議論は紛糾気味だ。
自民・民主の“代理戦争”
さらに問題を複雑にしているのが政治の思惑だ。自民党国土交通部会の航空問題プロジェクトチームは5月から7月にかけて断続的に会合を開き、JAL問題を討議した。
「生活保護者にお金を出したら、生活が良くなって2年でベンツを買ったようなものだ。モラルハザードが当然起きる」(末松信介議員)、「羽田の国際線に反対していたJALが今はそのメリットを受けている。自らがんばったというが、全くそうではない」(塩崎恭久議員)。出席議員からは、JALを攻撃する声が相次いだ。
自民党の鼻息が荒いのは、JAL再生が民主党政権の手がけた数少ない成功事例とされているだけに、JAL叩きで与党に打撃を与える意向があろう。そこに目を付けたANAによる働きかけが奏功したと見る向きも多い。