2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2021年7月30日

文科省の経営指導強化方針
「本気度」は未知数

 こうした事情を背景に文科省もようやく重い腰を上げ始めた。

 18年7月、文科省は高等教育局長名で「学校法人運営調査における経営指導の充実について」という通達を発出した。これは、直近の経常収支が3期連続赤字で、かつ「運用資産-外部負債」が直近期でマイナスに該当するなど、一定の要件に該当する私大法人(「集中経営指導法人」)に対して、文科省が「きめ細かい集中的な経営指導」を「今後3年程度の期間を目安に実施」するものである。

 その上で、その間に十分な経営改善が行われていないと認められる私大に対しては、「部局(学部等)の募集停止」や「設置校の廃止」さらには「学校法人自体の解散」等の対応策を取ること、文科省は私大にその対応策の公表を求めることとした(さらにその結果を文科省が公表)。

 その後、「集中経営指導法人」(その選定については筆者も昨年3月末まで文科省の学校法人運営調査委員として参画した)に対して、「集中経営指導」が行われているようだ。

 この指導は経営難の私大には学部等の廃止にとどまらず、場合によってはその法人自体の解散をも迫るものであり、かつて例を見ないほど厳しいものだ。ここで懸念されるのは、これほど強い「指導」を文科省がどこまで本気でやるのか、という点だ。上述の通り、私学には「自主性の尊重」といういわば「不可侵」の原則がある。したがって制度は構築されても、実際に文科省が私大法人に強い姿勢では踏み込めていない状況がありえる。

 実際、文科省が学校法人に解散を求めたのは、最近では13年3月、設置認可申請書類や決算書類の虚偽記載、給与遅配、法人の理事間の抗争等、経営状況が極めて悪質だった「堀越学園」(群馬県の創造学園大学等を保有。なお東京の堀越学園とは無関係)の例があるのみだ。経営状況が苦しいとはいえ、現状の私大法人でここまで劣悪(悪質)なケースはほとんどないのではないか。しかもこのケースは私学法第62条に基づく「解散命令」だったが、今回はあくまで一片の「局長通達」にすぎない。

 他方、少子化は従来の予測を遥かに上回る速度で進行している。21年5月26日付日本経済新聞は、「少子化、コロナで加速」と題し、20年度の出生数が85.3万人と前年度比4.7%減少、さらに「2021年の出生数は76.9万人まで激減する」との第一生命経済研究所・星野卓也主任エコノミストの予測を伝えている。この水準はつい数年前までの100万人前後と比較すると、実に25%も減少する計算だ。

 ここまで若年人口が減少すると、私大に限らず、幼小中高を含め多くの教育機関全体が厳しい経営難に陥る。人口減少に応じた大学規模や経営の見直しが求められる。企業と同様、好景気の際に大きな改革を迫ることは難しいが、厳しい状況だからこそ将来を見据え改革を断行すべきではないか。文科省はどこまで私学の経営に「大ナタ」を振るえるのか。その「本気度」が問われている。

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