「自主性尊重」が私学政策の基本
私大数や定員の大幅増に
では文科省はこうした中小私大経営の現状に対してどういう姿勢を取っているのか。実はこれが外部の人間には分かりにくい。これを理解するにはまず歴史をひも解く必要がある。
戦後の私大政策は1949年12月の「私立学校法」制定以来、その基本は「私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによって私立学校の健全な発展を図る」(同法第1条)ことを目的としてきた。ここでのポイントは私学の「自主性の尊重」である。私学関係に国は極力介入しないこと、そして、教育や研究にとどまらず経営面でも私学の自主性を極力尊重するということである。
この背景には、33年、京都大学・滝川幸辰教授らが危険思想を持っているとして同大教授数名を免職した「滝川事件」に象徴される、戦前日本で起きた国家権力による「学問への弾圧」という苦い経験がある。以来、旧文部省や文科省は76年~85年の約10年間を除き、私立の大学および学部の開増設、定員増などについて弾力的な姿勢を取っており、私立大学の数や定員は増加の一途を辿っている。
ちなみに2000年以降、19年までの約20年間だけをとっても、私大数は129大学増(27%増)、私大入学定員数は約7万2000人増(17.3%増)となっている(下表)。なお、上述の「入学定員超過規制」強化も、地方私大へのテコ入れと、大学生によるアルバイトや飲食店での消費など、地方経済活性化が大きな狙いとしてあった。
だが、ここで悩ましい問題が出てきた。それは少子化の進行に伴う大学進学者数の頭打ち、ないし減少という問題である。大学進学率が上昇しても、最近の18歳人口の減少はこれを遥かに上回る速度で進行している。
このため上記の期間中、既に大学の実志願者数(同一受験生が複数の大学を併願しても1人と計算。国公立を含むベース)は74万5200人から67万3844人へと減少(▲9.6%)、「少ない受験者を極めて多数の大学が奪い合う」という過当競争が進行中だ。
結果としてこの間、私大の入学定員充足率(入学者数/入学定員、%)は113.6%から101.6%へ低下。「定員割れ」(充足率100%未満)大学は593大学中184大学(31%)に達し、うち40大学は充足率が80%を割っている。「充足率大幅未達」は私立大学経営にとっては重大な問題だ。19年現在、全国約550の私立大学法人のうち既に41法人が「収支差額比率」がマイナス20%未満という深刻な経営難に陥っており、この数は20年前の約5倍だ。
これらの中には、給与など各種支払いの資金繰りが厳しくなりつつある大学もある。当然こうした大学では教育や研究もままならない。かつてバブル崩壊後の「不良債権問題」で騒がれた「ゾンビ企業」と同様、その存続の是非を問う声も少なくない。
こうした声は、経済界を中心とする、大学数急増等に伴う「教育の質の低下」の是正を求める声と相俟って、文科省に早急な対応を迫っている。さらに私学には毎年3000億円もの補助金という形で税金が投入されており、国民もその使途に目を凝らす必要がある。