2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2021年8月4日

東京五輪は壮大なテストケースのはずだった

 旧国立競技場でもスポーツに留まらない多用途利用としてエンタメ・コンサートなどにも活用されてきたが新国立となった現在、東京ドームやさいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナなどの既存施設だけでなく、有明アリーナなどの今大会の屋内施設や横浜のKアリーナ(建設中)をはじめとしたコンサート会場など、東京近郊も含め1万人以上主要できるスタジアムやアリーナが各地で整備されつつある。こうした専門的な音響・照明設備、高度な技術をもつ運営スタッフなどを兼ね備えた施設群に囲まれる一方で、屋外施設で屋根もなく、多様なイベントに対応できる可動機構も備えていないが観客席だけは国内最大規模の「新国立だからこそ」なせることはほとんどないと言って良いだろう。

 民間の活用が叫ばれるところだが、新型コロナによる無観客によって、大きなテストケースが失われてしまった。オリンピック・パラリンピックは、多くの観客や大会関係者が出入りし、その中でどのような需要や課題、解決策が出せるかを見極めることができる、他にはない機会となるはずだった。何層にもわたる外部コンコースや部分改修しやすい天井の多さなど、大会を通じて高度な活用方法を見いだせるものだ。新国立の特徴も積極的な施設利用の提案があってこそである。

 無観客開催により、新国立は世界中から人々を集めて世界最大規模のイベントを行う機会を失ってしまった。そうした「レガシー」がなくなってしまった状況において、今後思い切った利用計画は行われるのだろうか。もともと中途半端な改修しかできない施設にも関わらず、観客を入れた利用実績もほとんどないまま終わってしまう今大会。負のレガシーとして残されるようであれば、将来にわたってスタジアム規模に見合ったイベントが何もできない施設になってしまう。

 後利用として考えられるのは、「スポーツに使う」だけでなく、イベント利用以外で利用価値を高める提案を検討すべきである。例えば、「国立スポーツ科学センター」は、近年屋外トラックなどを併設した競技力向上に向けた研究施設を有している。IoTやセンサーを利用した屋外施設は自然光の影響でさまざまな動きを感知して数値化するセンシングが難しく課題も多い。

 新国立のように360度をスタンドと大屋根が覆い、分析や解析などを行える諸室を有した環境は医科学連携利用しやすいだろう。こうした医科学連携施設はトップスポーツのためだけでなく、一般利用に供することができるのがポイントである。

 日産スタジアムに拠点を置く横浜市スポーツ医科学センターのように、まちなか施設としてアスリートのための栄養管理や健康指導の中心施設としても利用できる。神宮外苑は普段からランニングやウォーキング、サイクリングなど国内きってのスポーツ環境である。新国立という施設単体に留まらないエリア全体を活用する方策が必要だろう。

 一方で、医科学利用だけでは施設活用としてのインパクトは弱く、スポーツ・医療・IT関連企業など広く民間企業を受け入れ共創できる環境として新国立という施設を利用すべきだ。とかく国際オリンピック委員会(IOC)や各国のVIPらを招き入れるための施設内の諸室が多いのである。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボでは世界からIT企業を集めたコラボレーションを促す施設を創り上げた。新国立はスポーツによる共創ラボとして運用し、トップアスリート向けのトレーニングや競技技術向上から、市民の健康維持のための体力数値の測定や個人に合った運動メニューの提供といったスポーツにまつわるすべてをカバーしながら、ビジネス創出まで視野に入れたエリア全体のエコサイクルを構築すべきだ。

 特定の誰かのための施設はこれまでの経緯にもあったように民意からの反発が予想されるだろう。また、新国立はステークホルダーが多く、建設時のように計画の白紙撤回も起こり得てしまう。だからこそ、ステークホルダーマネジメントとあわせ、国がスポーツだけではない民間による思い切った活用へ舵を切る方向性を示すべきである。

  
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