2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月10日

 7月21日付のワシントン・ポスト紙で、マックス・ブート同紙コラムニストが、「台湾をめぐる戦争の危険は大きくなっている。北京をどう抑止するのか」と題する論説を書いている。

Barks_japan / iStock / Getty Images Plus

 中国共産党が、必要であれば力で台湾を併合するとの脅しを強める中、米軍では警戒心が高まっている。台湾に対して中国が「軍事オプション」を行使することについて、米インド・太平洋軍の情報担当、マイケル・スチュードマン海軍少将は7月初め、「我々にとりこれは何時かの問題であって、あるかないかの問題ではない」と述べた。アキリーノ同司令官は今年上院で、「この問題はほとんどの人が考えているよりずっと近い」と言った。

 ブートの論説は、中国の台湾への武力侵攻の可能性への懸念を表明し、中国をどう抑止するかを論じたものである。大変興味深い論説である。

 中国が台湾に対して、第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦のようなことを試みうるようになるのには、まだまだ時間がかかるとのミリー米統合参謀議長の判断は、それなりに適切な判断ではないかと考えられる。習近平総書記にしても、試みて失敗すれば、中国国内で政権が維持できないようになる危険があるだろう。

 ブートは、台湾全島を正面から攻撃する以外に、中国は例えば封鎖を行うなどの他の手段を用いる可能性を指摘している。そういうことが起きる可能性は、ずっと大きいのではないかと考えられる。

 台湾の重要インフラへのサイバー攻撃、グレーゾーン攻撃、ロシアがクリミア奪取で使ったハイブリッド戦争なども考えられる。中国が行い得る諸作戦のシナリオを幅広くよく検討し、それにどう対応するかの準備をしていく必要があると考えている。ブートの警告の意味もそこにあるように思われる。

 米国が台湾防衛に来るか否かについての「戦略的あいまいさ」が賢明な政策であるか否か、米国内では大きな議論になっている。リチャード・ハース米外交問題評議会会長やワシントン・ポスト紙コラムにストのジョージ・ウィル、さらにこの論説の筆者、マックス・ブートは、この戦略的あいまいさ政策はもうやめる時期であると考えている。朝鮮戦争が始まったのは、アチソン長官が米国が韓国を守る意思を持つか否かをあいまいにしたからであったことを、もう一度教訓を得るために振り返ることが必要であろう。

 米軍の装備の在り方についてのブートの指摘は、これからの方向性を示す意味で重要である。中国のA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略の進展は重視すべきであろう。

 最後に、「一つの中国」政策、台湾独立問題への姿勢、戦略的あいまい政策、両岸関係の平和的解決の問題は整理する必要がある。今は両岸関係の平和的解決の理念が中心的であるべきだろう。

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