著者の井上雅晴氏は、慶應義塾大学工学部電気工学科を卒業。三菱商事で電力事業開発部長を務めたあと、ダイヤモンドパワー初代社長、ファーストエスコ電力ビジネス事業部長などを歴任しただけあり、電力事業に関してグローバルな現場感覚をもっておられる。
発電設備の海外輸出や事業投資(発電事業と電気の小売)、さらには風力、地熱、バイオマス、重油焚き、ガス焚きなど日米で10件の発電事業に携わり、日本第1号のPPS(特定規模電気事業者)事業を実現させて「電力会社の独占体制に風穴を開けた」経験からも、電力会社寄りでない、公平で客観的なプロの視点からの具体論が語られる。
米国で風力、地熱、バイオマスを手がけ
醍醐味も課題も経験した
たとえば、「電力需給逼迫時の発送電分離論は不適切で、需給正常化が先決」「『脱原発で自然エネルギー電源を』は全く無理」といった主張について、電気事業の歴史や制度、経済、さらに電気の特性など物理的特徴もふまえたうえで現実的な分析がされている。
とりわけ、電力自由化については、著者自身の米国での事業経験もふまえ、地域の歴史や民族性、経済発展の度合いなどによって自由化の中身は千差万別であり、課題も多々あることがわかる。
また、再生可能エネルギーや分散電源(自家発電設備)についても、米国で風力、地熱、バイオマス(木屑焚き)などを事業者として手がけ、「その面白さ、醍醐味も味わったが、一方、課題も痛いほど経験」したと述懐する。ハワイ島南端に大規模なウインドファームを造ったものの、その運転では大変な苦労をしたそうである。
そうした経験から、風力発電が日本に向かない理由として、(1)大陸の東側は台風に見舞われる(米国東海岸のハリケーン、東アジアの台風)。それに耐えられる構造にするとコスト高になる、(2)大陸の西側はコンスタントな西風があるが、東側は風の方向が定まらない、という2点を挙げる。ほかに、カリフォルニアの事例を挙げて景観破壊、騒音の問題なども考慮する必要があるとしており、同感である。
一時的な風潮で創られた電力買い取り制度の末路
興味深かったのは、ニューヨーク州で2万キロワットの木屑焚きバイオマス発電所を開発、運転した事業のエピソード。