2024年11月25日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2012年11月30日

 「バイオマス発電が主目的となると、費用対効果という面で通常の化石燃料による発電所に太刀打ちできず、何か優遇策があってはじめて成立する事業である」ということで、著者の事業も、米国のPURPA法(第2次オイルショックを受けて1978年に制定された、基準を満たした発電所からの電気を一定価格で買い取るしくみ)の優遇措置を受けて実現した。

 <ニューヨーク州と言っても、ナイアガラの滝に近い地方で、見渡す限りの森林地帯、そこの間伐材を燃料として使ったので、地元森林業者からは大歓迎された。灰は農家が土壌改良に役立つとしてどんどん持っていってくれたので、発電所に隣接した広大な灰置き場は、有難いことにいつも空であった。こんな恵まれたところであったが、それでも事業運営は結構大変であった。>

 PURPA法による電力買い取りのおかげで著者のバイオマス発電所は実現したわけであるが、一方で、著者はこうも語る。

 <電力買い取りは結局、電力会社の重荷となり、それが自由化推進の際、取引(ディール)に利用され、結果的に電力市場の崩壊と電力会社の破綻、ひいては州民の莫大な負債の原因となってしまった。(中略)その時の一時的な風潮で、奇抜な制度を創っても、それは必ず淘汰されることになるのが市場の原理である。>

政治家は「真の国益」を見すえた英断を

 太陽光発電についても、土地代の高い日本で、質の悪い電気を42円/キロワットアワー(2012年度買い取り価格)で20年間にわたり皆で負担し続けるという話は「必ずどこかで破綻をきたす」と釘を刺す。

 風力同様、「費用対効果面という点で基本的な問題がある以上、ブームが去れば頭打ちとなるであろう」と、きっぱり断言している。

 まずは、直面している需給逼迫を解決し、エネルギー供給の安定化と経済の活性化を図ることが先決だ。

 そのうえで、長期的な視野で電力システムを考えるにあたっては、著者のいう(1)冗長性のある(安定供給に十分な予備力をもった)発・送電設備の確保と将来にわたって拡充できる体制の構築、(2)国際エネルギー市場で十分伍していける購買力の確保、(3)燃料の多様化によるリスク分散(ベストミックス)、という三つをしっかりおさえておく必要がある。

 その道のプロの話に広く耳を傾け、「真の国益」を見すえて英断を下すのが、政治家というものではなかったか。形ばかりの「意見聴取会」や世論調査に右往左往するだけなら、政治家は要らない。

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