2024年11月22日(金)

新しい原点回帰

2021年9月11日

 それを物語るエピソードがある。

 1930年頃、完全八重咲きのオール・ダブル・ペチュニア「ビクトリアス ミックス」を世界で初めて開発した。それまでペチュニアはタネを蒔いても50%しか八重咲きにならないのが当たり前だった。100%八重咲きになるタネをサンプルとして欧米各国に送ったが、どこの企業もそのタネを蒔いてくれなかったという。「誰も100%八重咲きなどあり得ない、と信じなかったからだそうです」と坂田社長は笑う。

オール・ダブル・ペチュニア「ビクトリアス ミックス」シリーズ
(写真=サカタのタネ提供)

 唯一、今もドイツにあるベナリーという会社が蒔いたところ、本当に100%八重咲きになるというので大評判になり、世界の種苗会社から注文が殺到したという。「サカタマジック」とまで言われ、米国でも賞を獲得するなど看板商品になった。その時の、「SAKATA」の品質に偽りがないという信頼が、戦後再び、世界に打って出る時の基盤になったのだという。

 同社は今も世界で高いシェアを握る花のタネを持つ。トルコギキョウは75%、パンジーも30%に達する。サカタのタネの売上高のうち6割以上が海外だ。

「花は心の栄養、野菜は体の栄養」──。坂田社長は、「世界に栄養と笑顔を供給できる企業」になることをビジョンとして掲げる。国内でもタネのシェアは高く、ブロッコリーは7割、スイートコーンは6割、ホウレンソウは5割を占める。花では、パンジーが国内シェアの4割を握る。

トマト「麗夏(左)」、ブロッコリー「ウインタードーム(右)」。
野菜は体、花は心の栄養になる(写真=サカタのタネ提供)

 戦後、国内で生み出したヒット商品のひとつが「プリンス」メロンだった。戦前から日本でもメロンは生産されていたが、高級贈答品などとして使われるマスクメロンで、庶民には高嶺の花だった。62年に「プリンス」メロンを開発、その後も「アンデス」メロンなど、気軽に食卓にのせられるフルーツを作り出した。そして、70年代に米国でブロッコリーを大ヒットさせた。「まだまだブロッコリーの消費は伸びていくと思います」と坂田社長は期待を込める。

 野菜や花は食生活や文化と密接なつながりを持つ。中国やベトナムなどアジア諸国の生活水準が上がるにつれ、健康志向の高まりから食生活が豊かさを増し、生活の中に花が増えていく。その後にはアフリカが控えている。


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