2024年11月22日(金)

新しい原点回帰

2021年9月11日

研究開発が強みの源泉

 日本国内は人口が減っていくこともあり成熟市場だが、より品質が高く、健康志向の強い野菜へのニーズは高まっていくと読む。サカタのタネの強みはブロッコリーやキャベツなどアブラナ科の野菜類だったが、トマトやきゅうり、ピーマンといった果菜類にも力を入れている。そのためにはなんと言っても研究開発力が欠かせない。

 100周年に当たって坂田社長は7項目の頭文字をとった「PASSION」を経営理念として打ち出した。People(人々)Ambition(野心)Sincerity(誠意)Smile(笑顔)Innovation(革新)Optimism(プラス思考)Never give up(不屈の精神)の頭文字だ。その先頭に「人々」を持ってきているように、人材こそが品質や誠実さを支える。連結で約2500人の社員のうち20%程度が研究開発人材だ。

「野菜や花の栽培に、日本は本来向いていない場所なんです」と坂田社長は言う。気候が穏やかで栽培に適しているのではないかと感じるが、実は四季が存在し、台風もあり、湿度が高い日本は、植物にとっては世界の中でも劣悪な環境と言えるのだそうだ。逆に言えば、植物にとって厳しい環境でもよいパフォーマンスを出せる品種(タネ)は世界で通用するということだ。

 また、天候に大きく左右される中で、商品であるタネを安定的に採るためにはリスクを分散することが重要だ。年に1回しかタネが採れないものでも、北半球と南半球で生産すれば年に2回採ることができる。サカタのタネの事業がグローバル化しているのにはそんな事情もある。

 気候変動が激しさを増す中で、どう品質を守っていくか。サカタのタネの誠実な挑戦はまだまだ続く。

Wedge5月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■昭和を引きずる社会保障 崩壊防ぐ復活の処方箋
PART 1  介護         介護職員が足りない!  今こそ必要な「発想の転換」
PART 2  人口減少   新型コロナが加速させた人口減少 〝成長神話〟をリセットせよ    
PART 3  医療        「医療」から「介護」への転換期 〝高コスト体質〟からの脱却を     
PART 4  少子化対策 「男性を家庭に返す」  これが日本の少子化対策の第一歩
PART 5  歴史        「人口減少悲観論」を乗り越え希望を持てる社会を描け       
PART 6  制度改革    分水嶺に立つ社会保障制度  こうすれば甦る
Column 高齢者活躍 お金だけが支えじゃない  高齢者はもっと活躍できる
PART 7  国民理解    「国家 対 国民」の対立意識やめ真の社会保障を実現しよう
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Wedge 2021年5月号より
昭和を引きずる社会保障
昭和を引きずる社会保障

「失われた30年」

“平成”という時代を総括するときにしばしば用いられるこの言葉にはどこか、“昭和”という時代を礼賛する響きがある。

 たしかに、敗戦後の焼け跡から国を再興し、経済面では、世界首位の米国に肉薄した輝かしい時代だった。そして、バブル崩壊によりその輝きが手からすり抜ける悔しさを味わった時代でもあった。

 高度経済成長期の幻想を追い求め続けた「平成」が終わり、「令和」の時代が幕を開けた今、我々は新たな日本の未来を描くべきだ。

 今や国の基盤となった「社会保障制度」も昭和の時代に形作られた。1946年(昭和21年)公布の日本国憲法に「社会保障」という言葉が用いられたことでその概念が広まり、昭和30〜40年代の国民皆保険・皆年金の整備、老人医療費の無料化、児童手当の創設等により制度拡充が図られた。まさに、人口増加と経済成長を下支えに「風呂敷を広げた」時代である。

「福祉元年」と呼ばれ、現在の社会保障制度体系がほぼ整った73年(昭和48年)、第一次オイルショックが勃発し、高度経済成長は終焉に向かう。それから今日に至るまで、年金制度へのマクロ経済スライドの導入や、高齢者医療費の自己負担率引き上げなど、様々な制度見直しを迫られた。特に、少子化による負担者の減少と、平均寿命の伸びによる給付額の増加は、制度創設当時には想定しきれなかった事態といえる。

 2008年をピークに、日本の総人口は急降下を始めた。現在約1億2500万人の人口は、2100年には6000万人を下回り、半分以下となる見込みだ。人口増加を前提とした現行の社会保障制度は既に限界を迎えている。昭和に広げすぎた風呂敷を畳み、新たな仕組みを打ち出すときだ。

 社会保障に「特効薬」はない。だが、昭和的価値観から脱却し、現状を受け入れることで、その糸口が見えてくる。これから示す「処方箋」が、新たな時代の社会保障へとつながっていくことを期待する。(文・編集部 川崎隆司)


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