マダガスカルは現在、深刻な飢餓に見舞われている。国連によれば、110万人以上が飢えており、5歳未満の子ども50万人以上が深刻な栄養失調に陥る恐れがあるという。WFP(世界食糧計画)は、既に6月にマダガスカル南部で旱魃による深刻な危機が生じているとして支援を求めるアピールを発出していた。BBCが8月25日に「これは世界初の“気候変動による飢饉”である」と報じ、改めてメデイアが注目するところとなった。
飢饉がこのように深刻になった原因は、気候変動と新型コロナの感染拡大であろう。これに加えて、エコノミスト誌9月4日号は、長年の悪しきガバナンスに原因があると論じているが、気候変動の影響は多少ガバナンスが良かったとしても容易には克服できるようなものではないであろう。
しかし、マダガスカルのガバナンスに問題があることも事実である。独立後、軍政と20年近くの社会主義政権を経て、90年代から市場主義経済に移行したが、政権が長期化すると政治危機が生じ経済も停滞するという状況が繰り返されて来た。もっとも、大規模な内乱や人権侵害にはならず、事態が早期に収拾されるのが救いではあった。
2002年に大統領に就任したラヴァルマナナは、米国や南アフリカとの経済関係を重視し、旧仏領でありながら英語も公用語とするなど意欲的な政策を進めた。しかし、長期政権となるに従い利権の私物化等の批判を招き、09年には国民の不満を背景に軍がクーデタを起こし、当時首都の市長であったラジョリナが暫定大統領に就任した。
民主化復帰のための13年の大統領選挙では、ラジョリナ派候補が当選し、政情不安下での18年の選挙では、ラヴァルマナナとラジョリナ自身の決選投票となり、ラジョリナが制した。今日でも、この両者が与野党の指導者として政治的に対抗する構図は変わっていない。
政権が長期化すれば経済・社会面の停滞や汚職の蔓延等に対する国民の不満が高まり政情不安となる傾向も変わっていない。ラジョリナについては、ポピュリスト的な傾向もありその施策やラジョリナ系による縁故主義が蔓延していることに批判もある。
7月には、大統領ら要人の暗殺未遂事件があったとして20人以上の有力者や軍、警察の幹部が逮捕される事件が生じた。事実関係は不明であるが、石油利権の見直しで不利益を受けるに反対した多国籍企業がスポンサーとなったクーデタ未遂事件とも報じられている。