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2021年10月4日

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小谷 賢 (こたに・けん)

日本大学危機管理学部教授

1973年生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了、京都大学大学院博士課程修了。防衛省防衛研究所主任研究官、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)客員研究員、防衛大学校講師等を経て現職。主な著書に『インテリジェンスの世界史』(岩波現代全書)、訳書に『特務 スペシャル・デューティー』(日本経済新聞出版社)など。

 1948年の建国当初から四方を敵に囲まれた形のイスラエルは、安全保障確立のための軍事力と近隣国の動静を探るためのインテリジェンス能力が極めて発達している。

 現在、人口900万人程度のイスラエルのインテリジェンス・コミュニティーは、推定で2万人弱と見積もられている。これを人口1億2000万人の日本に当てはめて考えてみると約26万人となり、日本の自衛隊員の総数より多い人数がインテリジェンスに携わっていることになる。

 さらにイスラエルのインテリジェンスは〝量〟だけではなく、〝質〟にも定評がある。同国の情報機関を支えているのが、世界中に散らばるユダヤ人の存在だ。彼らは「サイアニム」と呼ばれ、時には同国以外の国の情報機関や軍にも採用されていることもあり、広範なユダヤ人ネットワークから収集される情報は膨大なものとなる。

 特に米国におけるユダヤ人の影響力は大きく、ファイブ・アイズ諸国のある情報関係者は「米国の情報機関のどこにイスラエルの協力者が入り込んでいるのか見当もつかない」と話してくれたことがある。イスラエルは世界で有数のインテリジェンス大国だと言っても過言ではないだろう。

五輪事件がきっかけで
始まった秘密工作

 イスラエルのインテリジェンス・コミュニティーは主に3つの組織によって担われている。イスラエル軍参謀本部諜報局(アマン)、総保安庁(シャバク、もしくはシン・ベト)、そして諜報特務庁(モサド)だ。

 アマンは軍の情報部門であり、傘下に通信傍受や偵察衛星の部署を抱えているため、予算・人員の規模が最も大きいとされる。イスラエルは国民皆兵制であるため、軍の情報部門に人員を集めやすいということもあろう。

 シャバクは治安・公安機関であり、かつては「シン・ベト」と呼ばれていたので、現在も欧米ではこちらの呼び方の方が主流である。シャバクの任務は主にイスラエル国内における治安やテロ関連情報の収集にあり、その過程で尋問や暗殺工作も行うとされている。

 特に84年、イスラエル国内でバスジャック犯を逮捕したシャバクは、その日の尋問中に犯人を殺害してしまい、これが表面化して問題になったことがある。これを受けてシャバクの活動に対する法的な規制が設けられることになった。

 そして最も有名なイスラエルの情報機関といえばモサドだろう。モサドという名前にはもはや神秘的な響きすら覚えるが、その意味はヘブライ語の「機関」にすぎない。

 しかしイスラエルのインテリジェンス・コミュニティーにおいても一目置かれる存在であることは確かで、アマンの元職員にインタビューをした際、もし次に勤めるならどこが良いか、と私が尋ねたところ、「絶対にモサドが良い。あれだけ自由にクオリティーの高いオペレーションができる所は他にはない」と言っていたのが印象的だった。

 実はモサドには根拠法がなく、これは欧米の情報機関からすれば極めて異例のことである。前述のサイアニムという世界中に居住するユダヤ人から情報を集める大本はこのモサドであるため、その情報収集力には定評がある。

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