この間、中国の海洋進出や豪中関係の悪化により、広大なEEZを保有する豪州としては12隻の原潜を有する中国に対抗する上で、AUKUSによる原潜の導入が不可欠の選択となっていた。豪州の対応は仏側に不満を伝えていただけという不器用なものではあったが、予めフランスと事前協議を行えば AUKUS 交渉も表沙汰となり、このタイミングで仏側の納得を得ることはできなかったであろう。
AUKUはクアッドとともに必然的な選択
いずれにせよ、契約破棄はフランスにとって寝耳に水の話ではないはずであるが、仏太平洋戦略の柱としての意味を持ち始めていたこの契約が反故にされ、メンツを重んずるフランス人にとって収まらないのは事実であろう。特にル・ドリアン外相が契約獲得の立役者であったこと、マクロンが大統領選挙を来年に控えていること、EUがそのインド・太平洋戦略を公表しその果たす役割を強調しようとした矢先であったことなどが、予想以上の反発を招いている背景にある。
しかし、冷静に考えれば、AUKUSは豪州の安全保障にとり必然的な選択であり、フランスやEUがその役割を代替できる立場でもなく、米国との関係を決定的に悪化させるわけにもいかない現実を受け入れざるを得ない。従って、フランスの強い反発は、豪州からできる限りの違約金を要求し或いは、米国から信頼回復の対価としての何らかの譲歩を得ることを期待しているのだと見る向きもあろう。
AUKUSも「クアッド」(日米豪印)も米国のインド・太平洋へのコミットを示すものとして歓迎されるものである。バイデンがフランスとの関係を修復し、NATOに関連するEU諸国への配慮を従来以上に行うのであればそれはそれで結構なことではないかと思う。仮にマクロンが大統領に来年再選されれば、メルケル無きEUにおいてその存在感を増すという意味でもマクロンとの関係を修復しておくことは米国にとり好ましいだろう。
太平洋に海外領土を持つフランスは、インド・太平洋でのプレゼンスを維持する必要もあり、当面豪州との関係回復は難しいので、例えばインドや日本など他のパートナーとの連携の模索を行うか、いずれはAUKUSとの連携も必要となってくるであろう。
日本としても、フランスやEUが中国の力による現状変更を認めないとの立場を共有している以上、関係国に対し早期の関係修復を強く期待しているといった関心を伝えておくことが望ましいだろう。