2024年11月24日(日)

未来を拓く貧困対策

2021年11月5日

 実は、こうした制度の矛盾は実務を担う社協職員のなかでは広く共有されている。関西社協コミュニティワーカー協会が、全国の特例貸付業務に携わる職員1184人に行った「新型コロナウイルス感染症特例貸付に関する社協職員アンケート報告書」では、制度の有効性に疑問を感じると答えた職員は全体の90.5%に及んだ(制度の有効性への疑問:非常にあった 48.6%、あった41.9%)。アンケートに寄せられた現場の声の一部を紹介しよう(一部表記を修正)。

◎この特例自体が、貸付の体をなしていない。高額所得の方で1万円程度の減収で、コロナの影響をいえば何でも対象になってしまうことに納得がいかない。税金も投入されている制度であり、最終的に自分たちの負担になると思うとやりきれない。

◎貸付が適切ではないケースにも目をつぶり、粛々と貸すしかないという風潮が、これまで大切にしてきた支援感や、職業倫理なども蔑ろにされているみたいで、しんどさを感じた。将来のいかなる結果とも向き合わなければならないのは現場。それを思うと憂鬱だ。

◎個人に対する支援策として総理自ら「償還免除できる貸付制度」とPRしたことで給付金ではなく、「貸付しか選択肢」がないと捉えた他機関支援者・メディアが多数発生した。生活困窮者自立支援制度(筆者注、生活困窮者に対して、自立に関する相談や就労に関する支援によって「自立の促進」を図る制度)の住宅確保給付金等、本来利用されるべき制度につながらず、社協貸付含め借金で解決を図る人が続出してしまっている状況を生んだ。

返済されない金はすべて税金で負担

 改めていうまでもなく、お金というものは貸すことよりも、返してもらう方が何倍も労力がかかる。暴力団関係者が関与しているならなおさらである。コロナ禍の貸付では殺到する相談者をさばくために市役所職員が応援に入り、急場をしのいだ事例もあった。それでも、社協職員のなかに貸付対応で心身ともに傷つき、職場を去ったものも少なくないと聞く。

 リーマン・ショックで行われた貸付の際も、期限が来ても返済されない未回収金が増加し、焦げ付きが深刻化した。繰り返しになるが、今回はその50倍の1.2兆円である。現在の限られた社協の人員体制で、適切な債権回収ができるとは思えない。

 国は、「貸付金の回収は社協職員に任せて、行政は指導や監査をすればよい」という他人任せの姿勢ではなく、積み残した課題に自ら取り組み、その責任を果たすことが求められる。私たち国民、そしてメディアも、この問題に関心を持ち続け、「税金の無駄遣いになっていないか」ときちんとチェックしていく必要がある。

 ここまで「ばらまき合戦」ともいえる特例貸付の現状をみてきた。一方で、社協の運用によって貸付制度が利用できなかった人もいる。次回は、貸付というセーフティネットからも排除される人たちに焦点を当てて、この問題を考えてみたい。

■修正履歴(2021年12月1日16時30分)
2頁目の「非課税となる基準は世帯人員数などによって異なるが、単身世帯で年収100万円以下が目安となる。」の「世帯人員数」は「扶養人員数」でした。訂正して、お詫び申し上げます。

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