診断結果による言論も活発に
ワシントン・ポスト紙は、このような詳細にわたる検診結果の公表を踏まえ、翌20日付けで早速、「バイデン大統領および側近らは同志たちに2024年大統領選出馬意向を表明」との見出しの独自記事を掲載、①ホワイトハウスは、共和党による政権奪回への高まる懸念払しょくのため、ここ数日、再出馬方針に言及し始めた。②このようなメッセージは、バイデン氏が高齢と支持率低下などにより再出馬を断念するのではないかとのうわさを鎮めるとともに、ハリス副大統領や他の有力候補者たちの動きを凍結することを意図したものだ。③それにもかかわらず、民主党戦略家、高官らの多くは『本人がもし、健康面、意欲面でも職務を果たせないと判断した場合、出馬しないだろう』とみている。④中には、大統領の真意いかんに関わらず、取り巻きたちが政権の地歩低下を避けるためにあえて『再出馬』のサインを発信し始めているとの懐疑的見方もある――などと報じた。
同記事はその日のうちに、主要テレビ、各ネットメディアで一斉に転電され、次期大統領選への国民の関心の大きさを示した。
また、サキ大統領報道官は翌日の定例会見で、同紙報道を好機とみて記者団とのやりとりに率先して応じ「大統領は次期選挙への出馬の意向である」と明確に述べるとともに、実際に当局者たちが出馬問題についての懸念払しょくに乗り出していることも確認した。
こうしたことから、ワシントン政界では、バイデン大統領のヘルスチェックと結果公表、ワシントン・ポスト報道、サキ大統領報道官コメントという一連の動きはセットとして周到に仕組まれたものであり、最近とくに懸念されつつある大統領支持率低下に歯止めをかける狙いがあった、との見方が広がっている。
過去にほとんどなかった大統領の健康情報公開
米大統領の健康問題は、米国政治史を振り返ってみても、常に重大関心事とされてきた。しかし、歴代大統領は再選問題とも密接に絡むだけに、できるかぎり、検診情報は最小限にとどめるか、隠蔽につとめてきた。
最も有名なケースは、第32代フランクリン・D・ルーズベルト大統領であり、連続4回の大統領選で当選を果たしたものの、39歳のときに患ったポリオで半身不随となって以来、生涯を通じ車いすで過ごしてきた。しかし、ホワイトハウスでの長きにわたる執務を通じ、精密な健康診断書が公表されることはなかった。また、報道カメラマンは、大統領のリムジンでの乗り降り、移動、散歩時などの撮影は一切シャットアウトされた。
ケネディ大統領の場合も、全身倦怠感、吐き気、下痢症状を頻繁にともなうアジソン病を患っていたが、在任中、詳細は伏せられたままだった。
2016年大統領選に出馬したヒラリー・クリントン民主党候補の場合も、最後まで健康不安の噂がつきまとったものの、選挙期間中に有権者を納得させるだけの説得力のある健康データは公表されていない。
トランプ大統領は在任中の18年1月、3ページからなる健康診断書を公表、主治医は「高めのコレステロール以外のすべての数値は正常であり、すこぶる健康」と太鼓判を押した。しかし、肥満症、精神不安、読み書き等認知能力などの詳細は最後まで伏せられたままだった。
この点、今回明らかにされたバイデン大統領健康データは、そのち密さにおいて異例中の異例だ。それだけ年齢が年齢だけに、次期大統領選に絡む国民の関心が高まっていることを裏付けるものと言えよう。
ただ、「胃食道逆流症」や「棒足歩行症」などの項目は、年齢との関係も疑われるだけに、果たして、今回初めてその症状の説明がなされたことが、有権者に対する不安解消に直結するかどうか、依然として不透明感はぬぐえない。