2023年1月31日(火)

未来を拓く貧困対策

2021年12月16日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科博士後期課程修了。コミュニティ福祉学博士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 前回の記事で紹介した写真には、「特例貸付に足りなかったものが写っている」と書いた。効率を重視した特例貸付の中で切り捨てられたもの、それは、「あなたのことを大切に思っている」というメッセージである。

厚労省には他の選択肢はなかった

 「たしかに問題はたくさんある。それでも、今回の対応は厚生労働省の英断です」

 そう、古賀さんは言い切る。理由はシンプルである。

 「今回の貸付で、たくさんの命を救うことができた。私たちは社協としてゲートキーパー(命の門番)の使命を果たすことができたのです」

 それでも、貸付である以上、返済のことも考えなければならない。ただでさえ生活が苦しい人に、給付ではなく貸付で対応するのはいかがなものか。この問いかけにも、古賀さんは即答する。

 「生活に困っている人には、貸付ではなく給付をしていくべきだという意見があるのは知っています。たしかに、貸付ではなく給付にすべきだと、私も思う。それでも、今の政治状況で果たしてそれが可能だったのか。10年前のリーマンショックでも、総合支援資金の特例対応が行われました。しかし、今回とは違って、面倒な書類をたくさん揃えなければならなかった。貸付の申請までたどり着けずに諦めた人がたくさんいたのです。

 その時のことを思えば、今回の厚労省の判断は早かった。担当する人たちのなかに、現場のことをよく知る人がいたのでしょう。制度をしっかりつくることよりも、命を救うことを優先すると決断した人がいた。私は、『厚労省にも想いをもった人がいる』と感じました。もし、リーマンショックの時と同様の書類提出を求めていたら、貸付を受けることができずに自死に追い込まれた人が何人も出たでしょう」

特例貸付は〝ばらまき〟か

 2021年11月2日に閣議決定された「令和3年度自殺対策白書」によれば、2020年に自死した人は2万1081人と前年より912人増えた。前年より増加したのはリーマン・ショックがあった09年以来のことである。男性の自殺者は前年より23人減って1万4055人と11年連続で減少した一方、女性は935人増えて7026人となった。

 さらに女性について詳しくみていくと、「被雇用者・勤め人」が381人の増加、「学生・生徒」が140人の増加となっている。一方で、「自営業者・家族従事者」や「失業者」は微減している。

 また、原因・動機別にみた女性自殺者の過去5年平均との増減率を比較すると、「勤務問題」が34.8%と大きく増加している一方で、「経済・生活問題」はそれほど増えていない。

 白書や報道各社は、「働く女性の自死が増えた」と分析をしている。もちろん、コロナ禍で誰が苦しんでいるのかを探ることには意味がある。しかし、「本来は増えてもおかしくはないのに、増えなかった」という点にも、同じように注意を払う必要があるのではないか。

 コロナ禍では、自営業者や失業者の自死、経済・生活問題を原因とした自死は増えていないか、微増に留まった。女性のフリーランスや失業者は、コロナ禍で最も厳しい状況に置かれた人たちである。その命をつなぎとめたものは何か。


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