今回のイラン訪問で、敵国同士のイランとイスラエルに対するUAEの〝天びん外交〟があらためて浮き彫りとなった格好だが、UAEは今後、イランとイスラエルを仲介する役割を担う意欲を持っているとも観測されている。
サウジ離れの独自路線推進
こうしたUAEの立ち振る舞いについて、イスラエルのネタニヤフ前首相は米国の〝弱さ〟が大きな要因になっていると指摘している。米トランプ前政権はサウジアラビアやUAEとの関係を重視したが、バイデン政権は一転、イエメン戦争への軍事介入などを批判、サウジやUAEとの関係は冷却した。
バイデン大統領はアフガニスタンやイラクのケースでも明白なように、中東からの米軍撤退を進めており、イランの脅威からUAEを防衛するという信頼が小さくなっている。ネタニヤフ前首相はこうした米政府の姿勢を〝弱さ〟と表現したわけだが、「要は、米国は当てにできない」とUAE側が考えているということだろう。
こうした情勢の変化を読んで〝天びん外交〟を引っ張っているのがムハンマド皇太子だ。サウジアラビアの独裁者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に助言する存在としても知られる実力者だ。長年、UAEはサウジの弟分のような存在だったが、ここ数年は独自路線を急速に進めている。
2019年には、サウジの要請でイエメンに派遣していた軍を一方的に撤退させ、サウジとの関係がギクシャクし始めた。昨年8月にトランプ前政権の後押しでイスラエルとの国交樹立に踏み切った。この背景には、米国が最新鋭戦闘機F35を50機、見返りに売却するという裏取引があったとされる。
この夏の石油価格高騰に際しても、生産の現状維持を主張するサウジ対し、増産を強調して衝突する一方、イランとの関係改善を図った。さらに皇太子はリビアの内戦やムスリム同胞団への支援問題などで険悪化していたトルコとの関係改善に乗り出し、11月にアンカラを訪問、エルドアン大統領と会談した。同大統領はかつて皇太子を「最悪の敵」とまで罵倒していたほどだったが、UAEの物品をイラン・トルコ経由で欧州まで運ぶ新ルートで合意したとされる。
公休日を土日に変更
UAEの独自路線は外交だけにとどまらない。世界の状況に合わせて自国の体制を思い切って改革する大胆性もある。来年の1月から週末の公休日をこれまでの金、土曜日から、土、日曜日に変更することがそれだ。
イスラム諸国はイスラム教の集団礼拝が行われる金曜日を中心に週末としてきたが、ドバイが金融の一大中心地となったこともあり、国際的な金融市場の慣行に合わせるように変えることになった。これに伴い、役所の業務は金曜日の正午までになるという。