2024年12月23日(月)

教養としての中東情勢

2021年12月17日

 イスラエルのベネット首相がペルシャ湾岸のアラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、12月13日に同国の実権を握るムハンマド・アブダビ皇太子と会談。両国は昨年夏に国交を樹立していたが、かつての敵陣営への「歴史的訪問」となった。焦点は双方にとって最大の脅威であるイラン問題。皇太子は事前にイランに特使を派遣するなど〝天びん外交〟を展開した。その背景と思惑を探った。

(Minister of Foreign Affairs and International Cooperation/ロイター/アフロ)

事前に特使派遣、イランに通告

 2人の会談は予定を大幅に上回り4時間に及んだ。会談後に発表された共同声明によると、双方は経済・技術協力で合意し、自由貿易協定の促進で一致した。

 イラン問題については一切触れられていない。だが、ウイーンでの米国とイランによる核合意の再建協議が行き詰まり、核武装の懸念が強まるイラン情勢が両者の最大の関心事であり、突っ込んだやり取りが行われたというのが大方の見方だ。

 内容はおいおい漏れてくるだろうが、イランの脅威の現状分析から、どう協力して対抗していくかまで、話し合われたのではないかと見られている。当初、イスラエル政府は同国に拠点を置くジャーナリストを首相訪問に同行取材させ、首相と皇太子との合同記者会見もセットしていた。だが、新型コロナウイルスのオミクロン株の広がりを理由に突然すべてキャンセルされた。

 湾岸情勢に詳しいベイルート筋は「歴史的な外交成果を宣伝したいイスラエル側に対し、UAE側が嫌ったのではないか」と推測している。会談を華々しく宣伝すれば、敵国の指導者の訪問に神経をとがらせるイランを刺激しかねない。同時にパレスチナ人やアラブ人の反UAE感情を煽ることにもなる恐れがあるからだ。

 とりわけ、UAEはイランには気を遣った。タハヌーン国家安全保障顧問を1週間ほど前にテヘランに急派し、強硬派として知られるライシ大統領と会談させた。イラン大統領府によると、ライシ師は「ペルシャ湾岸のアラブ諸国の安全保障を支持する」と述べ、断交しているサウジアラビアなどとの関係改善に意欲を示した。

 タハヌーン顧問はムハンマド皇太子からのメッセージとして、イスラエル首相の訪問について通知し、訪問がイランへの敵対を意味するものではないことを伝えたと見られている。同顧問は国交が樹立される前からイスラエルを密かに訪れ、イスラエルの情報機関モサドのコーヘン元長官らと会談するなどUAEの秘密工作を担ってきた人物だ。


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