ビリー・ザ・キッドの行方
「ところで、本書の後ろ半分はビリー・ザ・キッドの追跡行ですね。21歳で死ぬまでに21人を射殺したという19世紀後半のガンマンですが、ビリーを取り上げた理由は?」
「本でも触れましたが、NHKの番組レポーターとしてアメリカで“あなたのヒーロー”を聞いて回った時、ビリー・ザ・キッドを挙げた人が予想外に多く、”彼は過去の人じゃないんだ“と驚いたのが契機ですね」
調べてみると、死亡した年以降に「ビリーと出会った」という新聞記事が大量にあった。
また、唯一残るビリーの写真がネガを裏焼きしたものと判明。その結果「左利き」が嘘で本当は右利きだったのなら、「21歳で死亡」も「21人を射殺」も怪しい、と直感したのだ。
「結局、判官びいきなんでしょうね。彼は確かに悪漢でギャング団にいたのですが、小柄で愛嬌があり、少し出っ歯。生前から男女を問わず、多くの人に愛されていました」
ビリーは最下層のアイルランド移民の子、それも妾腹だった。13歳の時、母と共にニューヨークからニューメキシコ州に移り、ある男の養子になった。が、すぐ家を出て職を転々とし、17歳で最初の殺人を犯す。
「ビリーは本当は、計何人を殺したんでしょう?」
「諸説ありますが、信頼できる説では4、5人。殺害に一部加担したアシストが3人。合計7人か8人でしょう。ただし、どれも損得のためじゃない。自由を求めて、それを阻害され、やむなく殺人に及んだ。何度も繰り返した脱獄に加えて、自由のため殺人を重ねてしまった“小僧っ子”ビリー。だからこそ、今も庶民の間で人気が高いんだと思います」
ビリー・ザ・キッドの長い追跡行の末、東さんは驚嘆すべき「ぼくなりの結論」に達するが、内容は読んでのお楽しみとしておこう。
「東さんは、現在80歳ですか?」
「そうですね」
「非常にお元気そうですが、本書のようなアメリカの旅暮らしと執筆を、あと何年ぐらい続ける予定ですか?」
「コロナ禍で、しばらく旅暮らしは遠のいていますけど、少なくともあと10年は」
「10年!」
唖然、呆然のバイタリティである。
もっか執筆中なのは、先ほど触れた「旅とアメリカ」。『アメリカは歌う。』『アメリカは食べる。』と合わせ、『アメリカは旅する。』としてアメリカ3部作を完成させる予定なのだ。ご健勝を、切に祈りたい。