「蛇頭(じゃとう)」というと、中国人の密出国、不法移民を仲介するブローカーのネットワークを意味する。今では同様に東南アジアから中国への渡航を仲介するネットワークも構築されているという。
21年初頭には福建省、広東省の警察による共同捜査が行われ、ブローカー51人、違法労働者486人が摘発されたが、氷山の一角に過ぎないだろう。新型コロナウイルス対策によって人の移動が厳しく規制され、居住者管理が強化されているなかでも多くの違法労働者がいるという事実は、中国の製造業がいかに外国人労働者を必要としているかの証左でもある。
中国国内で始まっている人材獲得合戦
日本と同様、移民への抵抗感が強い中国では外国人労働力獲得について公に議論することはまだ難しいが、一方で中国国内での労働力をめぐる争いは始まりつつある。かつての中国では経済先進地域への移住が集中する「盲流」を恐れ、戸籍地の自由な移動を禁止する政策が敷かれていたが、北京市や上海市などの大都市以外では、2010年代から規制は大幅に緩和されており、出稼ぎ農民が居住地の戸籍を取得する道が開かれた。
出稼ぎ農民をいかに居着かせないかに苦心していた時代から一転、いかに若い働き手を引きつけるかへと地方政府の関心は移りつつある。
非熟練労働者の獲得でも争いが始まりつつあるのだから、高度人材の獲得競争は激烈だ。中国を代表するイノベーション都市として知られる深圳市は、充実した高度人材獲得計画でもリードしている。
起業家や研究者、医師、教師など深圳にとって必要な人材には、数百万円規模の支度金、住宅費の補助、あるいは不動産購入費の割引きといった支援策が導入されている。西安市は4大卒ならば基本的に申請すればすぐに戸籍を取得できる政策を打ち出した。浙江省杭州市は市街地を大きく拡大し、より多くの人口を取り込める土地政策を進めている。
「中国と移民」というテーマだと、イメージされるのは中国からの移民だろう。しかし、状況は変わりつつある。世界の高度人材を獲得しようという取り組みはすでに大々的に進められているが、5年先10年先には海外の非熟練労働者の獲得、すなわち移民受け入れに舵を切る可能性は充分に考えられるのではないか。
巨大市場・中国が労働力の獲得競争に参戦してきたならば……日本に与える影響は甚大だ。燃料や食糧で繰り返されてきた〝買い負け〟が労働力でも繰り返されないよう、注意する必要がある。