一人っ子政策から少子化対策へ
そこにダメ押しとなったのが少子化だ。中国の出生数は近年、急減している。計画生育、いわゆる一人っ子政策が緩和され、すべての夫婦に2人目出産が解禁された2016年の出生数は前年比131万人増の1786万人を記録したが、その後は急落が続く。20年には1200万人にまで落ち込んだ。わずか4年で600万人近い減少だ。
20年に実施された国勢調査では、中国全体ではかろうじて人口増をキープしたが、すでに人口減が始まっている地域もある。もっとも状況が深刻なのは中国東北部(遼寧省、吉林省、黒竜江省)だ。
20年の人口は9851万人、10年前の前回調査から1101万人の減少となった。重工業と農業が主力産業の東北部は経済低迷が続き、働き手世代の人口流出が続いている。
こうした状況に危機感を覚えた中国政府は21年、本格的に少子化対策を打ち出した。現在、さまざまな模索が始まっている。
吉林省政府は21年12月23日に「生育政策の優良化による人口長期均衡発展の促進に関する実施プラン」を発表した。幼稚園や託児所の整備、育児休暇の延長、義務教育の充実といった社会インフラの整備に加え、結婚した夫婦については最大20万元(約360万円)の結婚子育て消費者ローン枠を提供し、しかも子どもの数が多いほど利息を下げるという不思議なインセンティブまで導入された。中国ネットユーザーの間からは「消費者金融を使って、出産奨励とはむちゃくちゃではないか」との声も上がっている。
禁じ手というべきか、果たしてフェアな社会政策なのだろうかと疑問に思うようなやり方だが、おそらく今後も類似の話は頻出するのではないか。吉林省のプランには、他にも2人目、3人目の子どもを持つ自営業者に対する減税措置が盛り込まれている。
また、12月9日には中国官製メディアの中国報道網に「3人目政策を着実に実行するために、中国共産党員・幹部は行動に移せ」と題した、党員は国民の見本として3人目出産に取り組むべきとのコラムが掲載された。いくらなんでも無理な話だとの批判が相次ぎ、コラムは撤回されたが、もともと中国は無理筋な一人っ子政策を実行していた国だけに、人口対策でも他国では思いも付かないような手法を採っても不思議ではない。
移民受け入れの可能性も
しかし、奇想天外な少子化対策が功を奏するかどうかは未知数だ。台湾、韓国、香港、日本など、東アジアの先行事例を見ると、一度低下した出生率が回復した事例はない。少子化は複数の要因によって引き起こされたもので、からみあった糸をほどいて問題を解決するのは容易ではない。
ではロボットが解決策になる……とは現時点ではまだ断言できない。今まで人力に頼っていた作業の多くが代替され省人化が進むことは間違いないが、労働力不足を解消するほどになるかは未知数だ。
中国では自動化と省人化に取り組む先進製造国として注目されているのが、実は日本である。その日本にしても、製造業の海外移転と空洞化が進み、技能実習生に代表される外国人労働力への依存が進んでいるのは、われわれがよく知るとおりだ。
中国政府は国内の雇用を守る立場から外国人労働者の受け入れは規制してきたが、今後は移民受け入れに転換する可能性は充分に考えられるのではないか。すでに中国南部を中心にベトナム人、ミャンマー人の違法入国者は相当数働いているとされる。ベトナム、ラオス、ミャンマーと中国南部の国境線は長く、そのすべてを監視することは困難である。