アサド一族によるシリアの私物化進む
中東政治の再編の中で目が離せないのはシリアの復権だ。イランの支援を受けた内戦で、アラブ連盟から〝除名〟処分を受け、資格を停止された。だが、このところ、内戦後を見据えてアラブ諸国との接近が増えてきた。ここでもイニシアチブを取っているのはUAEのムハンマド・アブダビ皇太子だ。
皇太子は10月、シリアのアサド大統領と電話会談。これに先立ちシリアと隣接するヨルダンのアブドラ国王も電話会談した。エジプトとシリアの外相会談も10年ぶりに実現。連盟復帰には全加盟国の賛成が必要だが、復帰が取り沙汰されいること自体、アラブ世界での認知を目指すアサド政権にとっては大きなプラスだろう。
だが、シリアの内情は悲惨な状況だ。過激派組織「イスラム国」(IS)は掃討され、内戦は小康状態にあるものの、終結はしていない。イランやロシアの支援、トルコの介入で戦闘が収まっているにすぎない。人口2000万人の半分が難民となり、国民の大勢が貧困にあえいでいる。
イランとロシアに膨大な借金を背負い込んだアサド大統領は国家の私物化を推進、その独裁ぶりが一段と強まっていることも忘れてはならない。内戦により通貨シリア・ポンドは85%も下落、経済が縮小、国家の破産状態が続いている。ワシントン・ポスト紙によると、こうした中、アサド大統領は生き残りのため、3つの方法で金を稼いでいる。
1つは携帯通信会社の乗っ取り。シリア市場を独占していた2社にさまざまな注文を付けて私物化し、経営者として側近を送り込んだ。このうちの1社は100億ドルの資産価値があるという従兄の「シリアテル」だが、身内であっても容赦しないアサド大統領の非情さを示すものだ。
大統領はこのほか、「カプタゴン」と呼ばれる覚せい剤の密造と販売も手掛け、莫大な利益を得ているという。また、シリアを訪れる人道支援団体や国連機関には、ドルとシリア・ポンドの交換レートを市場より何倍も高く設定し、その利ザヤで19年から20年の1年間で1億ドルを稼ぎ出した。同紙は「泥棒国家」と形容している。