廃棄される酒粕も
高専生ならではの着眼点で活用
学生の活動も新たな展開を見せている。本科から進学した専攻科1年生(大学3年相当)は自らの卒業研究を行う傍ら、PBL授業に参加。廃棄される酒粕をキクラゲ栽培の菌床に活用するための検討や、海外の日本食レストランへの展開を見据えた醸造キットの開発に取り組んでいる。金属材料を専攻する中野彩花さんは「分野が違うので手探りで進めているが、他にはない高専ならではの新たな活用法を見出したい。最終的にはキクラゲの栄養価も高められたら」と話す。同じテーマに取り組む佐藤雅也さんも「キクラゲ栽培を行う地元企業を視察し、アドバイスをもらいながら進めている。学外の人からも学べる貴重な機会」と話す。
醸造キットの開発を手がける永峰史琉さんは「反応式で示せば数行でも、実際はそんなに単純ではないことを知った。現在アルコール度数を10度まで上げることができたので、次は醸造期間を1カ月程度に短縮したい」と意気込む。飯岡大樹さんは「これがきっかけで日本酒が好きになった。仕込みが始まると、米の状態や匂いなどに異常がないか、途中で不安になることもあるが、日々、発酵の様子を確認しながら日本の文化を体感している」と話す。
卒業研究として携わる本科5年生の丹羽琴音さんも「醸造にはロマンがある。微生物の息吹を感じながら、昔から人が脈々と積み重ねてきた営みに思いを馳せている。そこに自分が新たに積み重ねられるものがあったら」と話す。現在、丹羽さんは新たな花酵母の確立を目指している。候補として有望視されているのは、西洋かりんとも呼ばれる「マルメロ」の花。函館の隣、北斗市の名産で、実をジャムにしたり、風呂に入れたりして楽しまれるが、良い香りはするものの生食に適さないため、なかなか活用が進んでいないという。「函館だけでなく、北海道を盛り上げたい」と言う。
学生たちの取り組みは、どれも前例がないものばかり。小林教授は「先生も知らないことを一緒にやる方がおもしろいじゃないですか。コンテストもいいですが、学生にはリアルなものづくりを知ってほしい」と話す。今後は酒粕を活用した化粧品など関連商品の開発や、販売・経営についても実践的な学びを繰り広げたい考えだ。
函館の新名所として、〝函館高専の酒蔵〟に観光バスが停まる日はそう遠くないだろう。
■ 人類×テックの未来 テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ
part1 未来を拓くテクノロジー
1-1 メタバースの登場は必然だった
宮田拓弥(Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナー)
column 1 次なる技術を作るのはGAFAではない ケヴィン・ケリー(『WIRED』誌創刊編集長)
1-2 脱・中央制御型 〝群れ〟をつくるロボット 編集部
1-3 「限界」を超えよう IOWNでつくる未来の世界 編集部
column 2 未来を見定めるための「SFプロトタイピング」 ブライアン・デイビッド・ジョンソン(フューチャリスト)
part2 キラリと光る日本の技
2-1 日本の文化を未来につなぐ 人のチカラと技術のチカラ 堀川晃菜(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
2-2 日本発の先端技術 バケツ1杯の水から棲む魚が分かる! 詫摩雅子(科学ライター)
2-3 魚の養殖×ゲノム編集の可能性 食料問題解決を目指す 松永和紀(科学ジャーナリスト)
part3 コミュニケーションが生み出す力
天才たちの雑談
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)
加藤真平(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
瀧口友里奈(経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード・メンバー)
合田圭介(東京大学大学院理学系研究科 教授)
暦本純一(東京大学大学院情報学環 教授)
column 3 新規ビジネスの創出にも直結 SF思考の差が国力の差になる
宮本道人(科学文化作家/応用文学者)
part4 宇宙からの視座
毛利衛氏 未来を語る──テクノロジーの活用と人類の繁栄 毛利 衛(宇宙飛行士)