アベノミクスのおかげで円が下がっているのは、近隣窮乏化であるとの海外から非難されているという議論がある。ドイツの中央銀行総裁は通貨切り下げ競争が起きる危険性を指摘し、韓国ではマスコミから「円安空襲」だとの声があがっているという(毎日新聞 1月30日)。
私の知る限り、世界の経済学者は、デフレ脱却や景気回復のために各国が金融政策を発動するのは当然のことで、今までしていなかった日本がしたからと言って文句をつける筋合いではないと発言している。この議論は、むしろ金融緩和をしたくない日本銀行関係者が集めて流しているのではないかという気がする。
UBS(スイスのメガ金融機関)の最高投資責任者であるアレックサンダー・フリードマン氏も「主要先進国はこれまで自国通貨を下落させる政策をとってきたが、日銀は緩和に消極的で企業の競争力が損なわれていた。今回の日銀の決定は合理的な判断だ」と言っている(日本経済新聞 1月31日朝刊)。
この非難に対して、これまで政府関係者からの回答は2つある。優等生的見解は、景気回復とデフレ脱却のための金融緩和を行ったところ、結果として円安になっているのであって、円安を意図したものではないというものである。
もう一つの麻生太郎財務相のべらんめえ調見解は、今まで他国通貨が下落していた中で円高を我慢していた日本が、少しくらい円安になったからといって、そんなことを言われる筋合いはないというものである。
私は、気分としては、べらんめえ調見解に賛同したい。リーマン・ショックの前兆である2007年8月のパリバ・ショックの前まで、円は1ドル120円だった。ところがその後、円は80円を切るまで対ドルで50%も上昇したのに、ユーロは対ドルで多少の変動はあったがほとんど変わらず、ウォンはピークで7割も下落した。今さら円が少しくらい下がったからといって文句を言うなというのがもっともである。
同時に、麻生財務相には、この状況を作ったのは日銀官僚であることも認識していただきたい。各国が金融緩和をしたときに日本もしていれば、円高に苦しめられることもなく、今さらこんな非難をされることもなかった。