2024年6月17日(月)

教養としての中東情勢

2022年2月6日

 爆撃で建物ごと破壊すれば殺害することは比較的容易にできる。だが、住宅の1階部分に住む一家は民間人で、子どもも多くいたため、作戦は巻き添え被害を出さないよう複雑なものになった。クライシ氏が自爆した場合の想定も行われたが、自爆しても建物が崩壊することはなく、巻き添えの死傷者が少ないことが確認された。

 2月1日、大統領は執務室でオースティン国防長官、ミリー統合参謀本部議長と会談し、特殊部隊で急襲する計画を承認した。バイデン氏はオバマ政権の副大統領だった当時の11年、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン氏に対する特殊部隊の殺害作戦に「リスキーだ」と反対した過去があり、「静かだが緊張したやり取りが交わされた」(米当局者)。

 大統領が決断した背景には、ハサカの刑務所への大規模攻撃などISが再び台頭する恐れがあったため、この流れを食い止める必要があったこと、さらには昨年のアフガニスタンからの米軍撤退に伴う混乱の失点を取り戻したいとの政治的な思惑があったと見られている。

妻と子どもを道連れ

 急襲作戦には月明かりのない新月の夜が選ばれる。その最も間近な新月は2日。大統領の承認を得た米軍指導部はこの夜に作戦を実行することを急きょ決めた。

 約30人の特殊部隊員を乗せた3機の武装ヘリが現場上空に到着したのは3日午前0時40分ごろ。上空では、攻撃機と武装無人機リーパー(死神)が敵の監視に当たった。

 軍が神経をとがらしたのは、一帯がアルカイダ系の武装組織「シリア解放委員会」の支配下にあり、いつ米部隊が攻撃にさらされてもおかしくないからだった。作戦は特殊部隊が拡声器を使ってアラビア語でクライシ氏に投降を呼び掛けるところから始まった。「お前が投降すれば、全員が助かるだろう。だが、投降しない者は死ぬ」「女、子どもはすぐに退避せよ」。

 この呼び掛けで、子ども8人を含む1階の民間人10人が退避した。その直後、3階部分で大きな爆発が起きた。クライシ氏が妻と子どもを道連れに自爆した瞬間だった。クライシ氏や家族の遺体は粉々になって窓から屋外に吹っ飛んだ。この爆発の後、特殊部隊が建物に突入し、掃討を開始した。

別の武装グループが接近

 2階にいたクライシ氏の側近とその妻が銃撃で抵抗したが、特殊部隊に殺害された。子ども1人が犠牲になった。この銃撃戦などで計13人が死亡した。

クライシの遺体から指紋を採取したが、最終的には3日朝(米東部時間)、DNA鑑定の結果、本人と確認された。また携帯電話やパソコンなど証拠品も多数押収された。

 作戦の終盤になって別の武装グループが現場に接近してきたため、武装へりが攻撃、2人を殺害した。「シリア解放委員会」の戦闘員とみられている。現場のもようを撮影したとされる動画がネットに投稿されたが、暗闇の中、激しい銃撃音が響いているのが聞こえる。


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