皮肉なことに、農業法人による堆肥の大量投入には国のお墨付きがある。彼らが耕作する農地には必ずと言っていいほど、農水省のある補助事業の名が記された立札があるのだ。
この事業では4年間に1億円超が農業法人に交付された。しかも、交付対象となる主な取り組みとして「堆肥の投入」が指定されていたのだ。農水省はこの農業法人に対する事業評価で「所期の目標を達成している」と結論付けた。
その間、農業団地で何が起きたか。「大量の排せつ物を入れたため、畑が1メートル以上高くなり、水を含みやすくなり、土壌が流出したり土砂崩れが起きたりしている」(地域住民)。
実際、同社が耕作し道路に接する農地の法面が2度にわたって崩落した。公道やその側溝、周辺の沈砂池(ちんさち)に土砂が流入するとして、住民は繰り返し、地元行政も巻き込んで交渉してきた。
「農業の花形」畜産が持つ全国的な課題
堆肥の大量投入は、施肥に名を借りた実質的な不法投棄ではないのか。こう考えて取材していると、畜産や農業の関係者から次のような言葉をしばしば聞いた。
「よくあること」
「排せつ物を肥料だと言って農地に入れるのは、心無い畜産業者の常套手段」
分かったことは、畜産の環境問題は全国に存在しているが、行政による指導がなされることは少ないということ。なおかつ、農水省の統計のうえではほとんど存在しないということだ。
本稿では、畜産による環境問題は一刻も早く手を打たなければならないということを確認しておきたい。畜産はいまや日本農業の花形になっている。
2020年の農業総産出額に占める畜産の比率は36%で1位。野菜が25%で2位、コメが18%で3位なので、産出額で見ると畜産が圧倒的に強い。その畜産は、小規模な家族経営が減り、大規模な経営へと集約が進んできた。
国が掲げた「みどり戦略」もはらむ危うさ
農水省は有機農業を25%にすると昨年5月に策定した「みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)」で掲げた。これまで有機農業や環境保護にさして関心がなさそうだったのに、急に有機拡大の方針を打ち出したため、多くの農業関係者が首をかしげてきた。筆者自身も理由がよく分からなかったのだが、今では取材を通じて、畜産の環境問題を解決する手段の一つとして有機農業推進が掲げられたと感じている 。有機農業の関係者からは「排せつ物処理のために畜産側が動いた」とも聞く。