〝イラン・モデル〟とは、去る2012年、イランが核開発計画に着手したのを受けて、米欧主要国が制裁措置として、同国をSWIFTシステムから除外したケースを指す。この結果、イランは、原油収入のおよそ半分、対外貿易収入全体の3分の1を失ったといわれる。
〝金融の核爆弾〟と揶揄されるゆえんだ。
イランはこの制裁で大打撃を受けたのを受けて、15年には、核開発計画の「一時凍結」に合意したため、締め出されていたSWIFTシステムへの再加入が認められた経緯がある。
自国経済への影響懸念も国際世論に抗しきれず
こうした過去の例を踏まえ、ゼレンスキー大統領、クレバ外相らウクライナ政府首脳は、ウクライナ危機打開策の重要措置として、SWIFT制裁に踏み切るよう、欧米主要国に繰り返しアピールしてきた。
これに対し、これまでエネルギー関連取引を通じ、とくにロシアとの関係が強いドイツおよびイタリアが、自国経済への影響が大きいとして、ぎりぎりまで反対の態度をとり続けてきた。しかし、今回の危機が本格的なウクライナ戦争にまでエスカレートしてきた以上、沸騰する対露非難の国際世論に抗しきれず、両国とも26日になって従来の主張を翻し、他の欧米諸国との共同歩調に踏み切った。
米国でも、これまでウォール街が①すでに過熱気味の物価上昇を一段と押し上げることになる②ロシアを困窮に追い込むことで中国により接近させる③ロシアをSWIFTに代わる他の金融システムに走らせる結果、ドル優位性が減退する――などを理由として、現段階でのSWIFT制裁には慎重姿勢を示していた。
ルーブル大幅下落の影響大
では実際に今回の制裁措置は、ロシアにどのような影響を及ぼすことになるのか。
ワシントン・ポスト紙の解説によると、ロシアは去る14年、クリミア併合に踏み切った当時、英仏などの一部欧州諸国が対露制裁を呼びかけたのを受けて、それ以来、SWIFT締め出しの可能性を念頭に対応策を練ってきたという。
その一つが、SWIFTに代わる「金融メッセージ融通システムSystem for Tranafer of Financial Messages」と呼ばれる構想だった。この制度は実際に始動しているものの、専門家の指摘によると、決して満足のいくものではなく、例えば、20年末時点で、参加者は、23カ国、400機関にとどまっており、グローバルな金融ネットワークとは程遠い弱小システムにとどまっているという。
これに対し、SWIFTには、世界200カ国以上、1万1000以上の銀行・金融機関が加入しており、事実上、唯一のグローバル金融決済システムとなっている。
米政府のデータによると、今回SWIFT制裁の対象となったロシア主要銀行による1日あたりの外貨取引額は460億ドル(約5兆円)にも達しており、このうちの80%がドル決済だとされる。