バイデン米政権はロシアが対ウクライナ軍事行動に踏み切ったことを受け、間髪入れず対露追加金融・経済制裁に踏み切った。だが、ロシアにとって最も致命的となる強硬措置は当面、見送られた。その背景にあるのが、国内および欧州同盟諸国側の抜き差しならぬ〝内輪事情〟だ。
できなかった二つの「決定的な制裁」
バイデン大統領は、プーチン大統領が「ウクライナ侵攻」を言明した24日、ただちにホワイトハウス・イーストルームでの記者会見に臨み、ロシアを激しく非難するともに、ロシア2大銀行との取引停止を含む一連の具体的な対露追加制裁内容を発表した。だが、その中からは、ロシア政府のみならずロシア国民生活にも深刻なダメージを与えかねない決定的な「二つの措置」が外されていた。
一つは、石油および天然ガス産業に対する直接制裁であり、もう一つは、「SWIFT」と呼ばれる国際金融メッセージ・システムからのロシア遮断だ。
まず、ロシア経済の主要収入源でもある石油、天然ガス産業が今回、制裁対象から外されたことについて、バイデン大統領は会見で「米欧諸国の燃料、ガソリン高騰を引き起こしかねない」と語ると同時に、ロシアが対抗措置として、西側への供給停止に踏み切ることへの警戒感をあらわにした。
とくに、米国にとって、石油・天然ガスはロシアからの貿易輸入の5割以上を占めているだけに、突然輸入がストップした場合の国民生活に与える影響が大きい。この点に関しても、バイデン大統領は米国内石油業界に対して、「この機に乗じて一気に価格をつり上げ暴利をむさぼることはやめてほしい」とくぎを押すことを忘れなかった。
米国内の原油価格は、ウクライナ危機が始まって以来、上昇傾向にあったが、とくに、去る22日、プーチン大統領による「ウクライナ東部2地区の分離独立承認」への対抗措置として、バイデン大統領が部分的対露金融制裁に踏み切ったのをきっかけとして、1バレル当たり33セント上昇し、92ドル24セントにまで達した。
さらに、今回、ロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されたことで、危機感は一層高まり、原油価格は近いうちに、1バレル当たり110ドルにまで跳ね上がることが予想されている。