2022年12月5日(月)

バイデンのアメリカ

2022年2月26日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

中間選挙を意識

 11月の中間選挙を控え、バイデン政権が最も心配するのが、物価上昇による国民生活へのしわ寄せに他ならない。

 とくに日常生活の最も重要な足であるマイカー用ガソリン価格は、すでに今年1月時点で前年度比24%も高騰、インフレ率も7.5%にまで上昇した(最新労働省統計)。その後のウクライナ危機の一層の深刻化により、インフレ率は年内には10%に達するとの予測も出始めている。

 それだけにここで、対露制裁の一環として、ロシアの石油、天然ガス産業をも狙い撃ちにした場合、その影響がただちに米市民生活を直撃することは必至だ。

 このため、バイデン大統領は一方で国民向けに「ロシアの暴挙から西側の『自由』を守る戦いを進めるにはわが国のある程度の犠牲はやむを得ない」と述べると同時に、「制裁の痛みはわれわれにではなく、ロシア経済に向かうべく最善の努力をする。国民へのコストは最小限にとどめるつもりだ」として理解を求めた。

欧州の合意が得られず

 バイデン大統領が今回の制裁で対象外とせざるを得なくなったもう一つの措置が、国際金融メッセージ・システム「SWIFT」に関するものだ。

 この問題については、筆者はすでに去る1月30日付けの本欄『迫るウクライナ危機 米国の金融制裁でロシア経済麻痺?』の中でも触れたが、「SWIFT」は、世界の金融機関同士がネット決済する際に使用する共通のコードであり、これまでロシア側も石油、天然ガス輸出代金を西側諸国から受け取る際に必ず使用してきた。

 もしこの「SWIFT」ネットワークからロシアを締め出した場合、対露代金支払いが滞り、ロシア市民生活にも大きな影響が及ぶ。しかし同時に、西側諸国も代金の対露未払状態が続き、結果的にロシアからの継続的石油、天然ガス輸出に支障を来すことになる。

 このため、米政府当局は、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受け24日、欧州同盟諸国との緊急協議の中で、対露制裁の中に「SWIFT」締め出しを含めるかどうかについても話し合ったが、合意を得られなかった。

 バイデン大統領は会見で「『SWIFT措置』はつねにわが方のオプションの一つだが、欧州の仲間たちはそれを欲していない」と補足説明している。

 侵攻に直接さらされた当のウクライナ政府側が、対露報復の決定打として「SWIFT」締め出しを強く求めているにもかかわらず、バイデン大統領が現時点で、そこまで踏み切れないのは、欧州諸国の反対を押し切ってまで強硬措置に出た場合、米欧間の結束に亀裂が生じることを恐れているからだ。

 この点ではバイデン政権は、窮状にあるウクライナ政府と欧州同盟諸国間の板挟みにあった感がある。しかし、トランプ前政権時代に大きく傷ついた米欧関係は、今回のウクライナ危機対応を契機としてようやく修復に向かい、協調意識も高まりつつあるときだけに、慎重な対応を取らざるを得なかった。

 さらに「SWIFT」制裁は、欧州諸国だけでなく、米国への石油・天然ガス輸出凍結にもつながる可能性が大きい。

 大統領自身も会見で「今回新たに欧州諸国と一体になって打ち出した対露制裁措置は、『SWIFT』に比べてもより強力なものだ」と釈明したのも、そうした苦しい事情があるからにほかならない。

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